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停滞の賢者  作者: 楯川けんいち
囚われの精霊編
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10話 賢者の察知

 朝起きると、目の前にクレアの顔があった。

 

 ふわりとした金の髪をまとめている彼女は、健やかな寝息を立てていた。

 その寝顔は、年相応にあどけない。

 

 思わず、微笑む。

 

 仰向けになると、天井に光量をしぼった灯火(ともしび)の魔法があった。

 また、部屋には保温の魔法がかかっている。

 

 ぼんやりと、そこまで見てとって。

 北の大陸にいることを思い出す。

 

 そして、なぜクレアとアイラ――実はクレアの向こうにアイラも横になっている――と川の字になって寝ているのか?

 

 僕は、昨夜にあったひと悶着を回想した。

 

 まず、昨日――――。

 

 

 ***



 ニ刻半ほどかけて探知の魔法をかけ終えた僕は、表にでた。

 陽は雲に隠れて見えないけれど、もうかなり暗くなっている。


 そして見たものは、死屍累々(ししるいるい)といっていい有様。

 

 クレアとアイラはどんよりとした目をしながらも、手は流れるように動いている。


 というか、どれだけ解体したんだ……!?

 ……二十ではきかない数だろう。

 

 頑張り過ぎだよ……。

 最低でも、夕飯の分を確保してくれるだけでよかったというのに。

 

 僕は二人を止めた。

 そして二人の血で汚れた装備と体を、魔法で徹底的に浄化する。

 

 そのとき、気づいたのだ。

 

 ――クレアの顔には、涙の跡があった。

 

 冒険者だったとはいえ、この量の解体作業は酷だっただろうか……。

 

 僕が心配して声をかけると、「……大丈夫です、何でも、ありません」とまったく大丈夫ではなさそうな返事が返ってきた。

 

 いつもの彼女の眩しさも、今は鳴りを潜めている。

 

 ……なんてこった。

 ……どうすればいいのかまるでわからない。

 

 僕ってやつは……無駄に年月を重ねているくせに、少女の慰め方もわからないのだ……。

 

 ……。

 

 わからないものは、仕方がない。

 

 僕は、問題を棚上げにした。

 でも僕に今できることが、一つだけあることは知っていた。

 

 料理だ。

 二人が処理した肉を使って、最高に美味しいものを作ろう……!

 

 僕は久々に本気をだした。

 

 魔法によって肉を熟成させるなどして最高の状態にした。

 水も、いつもは魔法で生成するところをウェルティナに保管してもらっていた魔の森の泉、その源泉で汲んだものを使った。

 

 出来上がったシチューは、僕としても近年で一番の味だったと思う。

 二人の様子にも活気が戻った。


 

 クレアは、「おいしい……本当に、おいしいです……」と目に涙を浮かべながら、食べていた。

 食べ終わったときには彼女はいつも通り、いやさらに活力のある雰囲気だった。


「師匠! 私これから、もっと頑張ります!!」


 唐突に、そう宣言された。

 今までも、すごく頑張っていると思うのだが……。

 

 ……彼女に一体、何があったのだろうか

 

 

 一方アイラは、「くやしい……本当に、くやしいです……」と目に涙を浮かべながら、食べていた。

 食べ終わったときには彼女もいつも通り、いやさらに気迫のある雰囲気だった。

 

「賢者様! わたくし次は、次は負けません……!!」


 クレアと同時に、そう宣言された。

 今までに、なにか競い合っていただろうか……。

 

 ……彼女は一体、何を言っているのだろうか?

 

 

 多少の困惑があったが……。

 まあ、元気になったようだし大丈夫だろう。


 よかった……。


 しかし、そう思えたのはそれほど長くはなかった。

 

 

 その後に問題は起こった。

 

 片づけも終え、僕たちはお茶を一服していた。

 

 そこで僕は、クレアとアイラは魔の森の家にもどって休むように言ったのだ。

 明日の朝に迎えに行くから、と。

 

 なにせここには風呂もないし、建物もこの一部屋しかない。

 僕は探知魔法の結果がでるまで、動くわけにはいかない。

 

 同室で夜を明かすなど、クレアはともかくアイラは嫌だろうと思う。

 

 だから今晩は戻ってくれ、と言ったのだ。

 

 だが、クレアが猛反対した。

 

「師匠が残るなら、私もここにいます!」


 そんな風に、梃子(てこ)でも動かぬ意志を表明したのだ。

 

 僕は困った。

 なにしろ、クレアの初めてのわがままだったのだ。

 

 かわいい弟子の、初めてのわがまま。

 

 僕には、それを無下にすることなど、できなかった……。

 

「殿下がいるなら、わたくしが離れることなどありません!」

 

 アイラもそう言って聞かなかった……。

 

 たしかに、魔法があれば風呂に入らなくても清潔ではあるが……。

 貞操とかは気にしなくていいのだろうか、王女にメイドよ。

 

 まったく…………。

 信頼されているのか、それとも……。

 ……いや、考えないようにしよう。

 

 仕方がない、と僕は就寝の用意をする。

 東の大陸のさらに東で使われている、布団という寝具をだした。

 

 これにはクレアとアイラも物珍し気にしていた。

 綿の入った布を床に敷いて寝る、という習慣はこの辺ではないのだから当たり前ではある。

 

 端の布団にゴロンと寝転がり、僕は目をつぶった。

 

 隣の布団に入ったクレアはしばらくの間もぞもぞとしていたが、そのうちに静かになった。

 一日で、いろいろとあったから疲れたのだろう。

 

 よい夢を、と口の中で言うと僕も眠りに落ちていった。

 

 

 ***

 

 

 そんなことがあって、今のように川の字に寝ることになった。

 部屋のなかは、少女たちの甘い匂いが充満している。

 

 外にでて風でも浴びようと思いながら、顔を横に向けた。

 

 すると、クレアの目が開いていた。

 その青い瞳はトロンとしている。

 

 彼女は僕と目が合うと、花が咲くように微笑んだ。

 

「あ~、ししょ~だ~」

 

 そしてなんと、ゆったりとした動作で僕に抱き着いてきた!?

 

「んふ~」


 すりすりと、彼女は顔を僕の腕にこすりつける。

 

 ……もしかしなくても、彼女は寝ぼけていた。

 

 僕は、何もできずにいた。

 なにこの可愛いの……!? という叫びで頭の中が占められていたのだ。

 

 そしてようやくまともな意識を取り戻したとき、僕は気づく。

 

 僕を見つめる、冷ややかな三対の眼を――。

 

 

 ***

 

 

 その後――――。

 

 しっかりと目が覚めたクレアは、顔を耳まで真っ赤にして身悶えていた。

 ……部屋の隅から隅まで転がりそうな勢いだった。

 

 僕はといえば、正座をさせられた上にメイドと精霊に叱責されていた。

 なんで僕が怒られてるんだろう……?

 

 その状態で脳裏に、数刻前にでた探知の魔法の結果を、思い浮かべる。

 そう、この大陸にいる精霊の位置はわかった。

 だからこれから、調査に動き出すっていうのに。

 

 しまりがないなぁ……。

 はあ、とため息をつく。

 

 すると、僕の周りを取り囲んでいた面子の目が釣りあがった。

 ……どうやら火に油を注いでしまったらしい。

 

 そこから僕は、ただただ耐えた。

 

 言葉の嵐が去ったとき、もう足の感覚はなくなっていた。

 

 はあ。

 

 

 

 

 

賢者が動くと、問題解決自体は短時間なんですよね。

前段階が長くなるのは仕方がないのです。

たぶん、きっと……。

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