4話 メイドの幸せ
メイドのアイラ視点。
わたくしはアイラ・ハルザード、一介のメイドです。
殿下、ファルシウェン王国第二王女であるクレア・レーガン・ファルシウェン様にお仕えしています。
現在、その殿下は国元を離れて、ここ魔の森奥深くにて賢者様の弟子として日々学んでいるところです。
このたびは側付きのメイドとはいえ、少々無理をしてわたくしも殿下についてきました。
賢者様に直接訴えず、ウェルティナ様にお願いするという迂遠な方法をとったのも、断られて置いて行かれる可能性を下げるためです。
王妃リーフェリア様より直々に、クレア様の様子を見守ること、そしてそのお世話を命じられておりますので。
ただ、その際に「賢者様とは、くれぐれも仲よくね?」と含みのある顔で言われたのはなんだったのでしょうか……?
しかし、もともとわたくし自身、殿下と離れる気など毛頭ございません。
賢者様も今これから、いろいろと成長していく殿下をお任せするには不安な方です。
何よりも男性ですからね。
ウェルティナ様は精霊ですし、ここは殿下のためにも女性が近くにいた方がよろしいでしょう。
というわけで、わたくしはこの恐ろしい記憶も未だに生々しく残っている魔の森に戻ってきたわけです。
殿下がいる場所がわたくしの場所なので、当たり前のことですけど。
***
そして、わたくしは挫折したのです……。
働かざる者食うべからず。
殿下のお世話はもちろんのこと、日々の食費の分だけでも……いえここの食費は、王侯貴族でも払えるのかわからないものでした……。
しかし、働かなければただの居候になってしまいます。
そう例えわずかばかりでも、誠心誠意働いて見せようとわたくしは決意したのです。
けれど……。
掃除は魔法で、洗濯は魔法で、料理は魔法で、何でも魔法で……。
わたくしが時間をかけて丁寧にやるよりも、賢者様は一瞬で完璧にそれらをこなしてしまったのです……。
わたくしの、存在する余地はなかった……。
メイドとしてのプライドは地に落ちました。
立派なメイドとなるための、あの訓練の日々は何のためにあったというのでしょうか……。
わたくしに魔法の才があれば、賢者様に噛り付いてでも教えを受けることができたでしょう。
しかし、わたくしの魔法の才は全くといってありません……。
ああ殿下……!
無能なメイドでありますが……どうか、捨てないでください……!
膝をついて子供のようにぐすぐすと、わたくしは非情な現実を嘆きました。
すると賢者様が山のように本を持ってきたのです。
わたくしにとって、それは宝の山でした。
名前も知らない料理やお菓子、初めて知る調理法、または食事に関する先進的な研究がどれを開くたびにわたくしの目に入りました。
わたくしが目を輝かせながら、食い入るようにそれらを読んでいると賢者様は言ったのです。
「僕はあまり甘いものなんかは作らないし、空で作れるレパートリーも多くはないからね。アイラ、時折に君が作ってくれるのならとても助かるのだけれど?」
わたくしは「お任せください!」と即答しました。
それからわたくしは殿下をお世話する以外は本を読み込み、またその内容を実践する日々を送っています。
***
殿下は、魔法の実践に関する修行で始めは随分と苦しんでおりました。
わたくしが完璧だと自賛した料理をお出ししても、上の空のご様子で召し上がっていらっしゃいました。
雰囲気も暗く、見ていて痛ましいものでした。
しかし、わたくしに修行でお手伝いできることなどありません……。
わたくしに出来るのは元気のでるお食事を作ることだけ。
そう熱意を込めて研鑽に努めました。
しばらくすると、殿下は修行に進展があったのでしょう。
その雰囲気がいつもの眩しいものに戻りました。
今も、わたくしが用意したお茶請けをおいしそうに頬張っていらっしゃいます。
ああ、殿下……!
わたくしはそのお顔を見れるだけで、幸せです……!!
わたくしはだらしなく頬が緩もうとするのを抑えながら、喜びを噛みしめました。
……はっ! ウェルティナが空気だ!!
というわけで、はじめての視点です。




