19話 深夜の密談
本日二回目の投稿。
――――深夜、誰もが眠りにつき、世界もまた静寂にまどろむ頃。
王宮のとある一室で一組の男女が酒杯を酌み交わしていた。
「賢者殿によると此度の被害は人口の六分の一から五分の一、あまりにも大きな損失だ」
男が痛みを堪えるように言った。
「そうですね……、ですが損失で済んだことも事実でしょう。間違っていればこの国はありませんでした」
女は男を慰めるように言った。
「たしかに、その通りではある。……だが、国力が大幅に落ちたのは変わらぬ。隣国に付け込まれる隙になるであろう」
男はぐいっと杯を呷る。
「我らが踏ん張らねばなるまい」
「ええ、わたくしたちの責務ですもの」
男の言葉に女はしっとりと微笑みながらも、深く頷く。
「賢者殿にも報いねばな……しかし、あの力を借り受けたいと思うのは浅ましいことだろうか?」
「あまりよろしいことではないでしょうね……そう思うのも分かりますが」
「であろうな……」
先の逢魔が時に目にした力を思い起こし、二人の背に震えが走った。
両名共に目を合わせ同じ思いを通わせる。
あれは、常に頼っていいものではない――と。
「虎の威を借る行為であるが、賢者殿の名だけでも借りることができれば大きな抑圧になるのだがな……」
男は背を伸ばし、息を一つ吐くと腕を組みながら言った。
「クレアちゃんも懐いていましたし、しばらくここにいてくれればよいのですが……」
「報告では、明日には帰ると言っているそうだ」
「そうですか……、あのお方にこの国となんらかのつながりができれば……」
「そうできれば、苦労はせぬ。だが機嫌を損ねればどこなりと消えてしまう御仁であろう」
ふーむ、と二人は唸る。
しばらくして、女が呟く。
「……婚姻を結ぶのは無謀ですが、弟子入りならどうでしょう?」
「弟子か、だが彼がそこらの魔術師を弟子にとる利はないぞ……」
「クレアちゃんならば?」
「其方、それは娘を人質に送るのと変わらないのではないのか? 第一、受けるとも限らぬ」
「いいえ、賢者様はお優しい方です。クレアも国のために学んでくるよう言い含めれば、公私ともに喜んで弟子入りを懇願するはずです。親のひいき目ですが愛くるしい娘なので、あの子が必死に望めば賢者様は受け入れるかと」
「ふむ、クレアも望むところであるか……」
男は目を閉じて考える。
そして数泊の後、目を開けて言った。
「ならば、そのように致そう。クレアには其方から話しておくようにな」
「はい、あなた」
そう言って、女は男と自分の杯に酒を注いだ。
男はそれを手に取り、目の前に上げる。
女もまた同じようにした。
「では、王国の未来に」
「王国の未来に」
そして二人は杯を呷った。
夜の闇だけがその一幕を聞いていた。
ある男女の密話。




