15話 賢者の役目
クレアの説明はそれなりの長さになった。
途中でまた、僕の持つ建国王の剣ボルディアを出したりもした。
そのときは一様に皆、息を飲み興奮していた。
約一名の戦士が「なんとやはり素晴らしい剣!」とか暴走していたが、皆取り合わなかった。
「……という次第で今に至ります」
そんなクレアの語りが今終わり、謁見の間には緊張が立ち込めていた。
「父上、今この時もファルシウェンの民の命は砂時計のように零れ落ちています。どうかご決断を……!」
王にクレアは言った。
その王は唸るように息を吐くと、僕を見た。
「……賢者殿よ、そのようなことが可能なのか? また、それ以外の方法はまことに存在せぬのか……?」
王たる者として、そして人として当たり前といえる質問だ。
それだけ僕の解決法は、道を踏み外している。
「できる。というよりも、現状を打開するにはこれしかできない。これ以外の方法が示せないのは、ただ僕の力不足だ」
「いや、賢者殿が力不足ならば、我らは蟻よりも非力になってしまう。それならば、もう仕様のないことなのだろう………」
目を閉じて、いくばくかの間の後に王は立ち上がった。
「聞いていたな、我が臣たちよ! 我らは非道を以って、我らの国を救うことを選び取るのだ。滅びを回避するために、我らは罪を背負うこととなる。我々は生あるその限り、それを忘れてはならない!」
王は大きく叫び上げ、重鎮たちは膝をつき臣下の礼をとった。
それはまさしく、王の姿だった。
「其方たちには、今まで以上に国を想い、国のために働いてもらうこととなるだろう。……我には、其方たちの力が必要だ」
その言葉に、ローブの爺さんが言う。
「陛下よ、それ以上言いなさるな。陛下はただ我らに命ずればよろしい、我らはそれに十全以上に応えましょうぞ」
それに同意するように、他の臣下たちも深く礼をする。
「其方たちの忠義、たしかに受け取った……!」
そう言って、口を引き結ぶ王は、威厳のある様子だった。
しかし、僕はその目尻に光るものがあるように見えた。
「では、賢者殿。王として情けない限りであるが、どうか! 我が国を頼む!!」
「再びではありますが、お頼みします賢者様!」
なんと王は僕に頭を下げた。
クレアもまた、僕に頭を下げている。
まったく、揃いも揃ってこの親子は、礼に厚いというか頭が軽いというか。
「王が、そう頭を下げるものじゃあない。……だが、承った」
王にそう言い、クレアには頭を撫でながら顔を上げさせた。
僕を見つめる彼女の瞳は、感謝の念からか、熱っぽく潤んでいた。
「あたしたちに任せなさいな」
ウェルティナも胸を張った。
「僕の苦労は、君たちのこれからほどではないさ。だから、僕の領分はきっちり果たす」
クレアの頭から手を離し、僕は宣言した。
「感謝する、賢者殿」
王のその言葉を受けながら、僕はローブを翻して玉座に背を向ける。
そのまま、扉に向かって歩き出す。
僕の役目を果たすために。
ようやくここまで来ました。
次回やっと賢者の国救いです。