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停滞の賢者  作者: 楯川けんいち
病患の王国編
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13話 賢者の外出、そして王宮

 いつもどおりの一瞬の浮遊感の後、僕たちはファルシウェン王国王都に着いた。

 

 おお、と驚いているクレアたちを尻目にぐるっとあたりを見渡すと、僕が指定した場所に問題なく転移できたことが確認できた。

 

 百メートルほど先にあっても立派に見える大きな建物と、すぐ目の前にある正円の池、形を整えられた木々。

 ここはファルシウェン王国王都でも、その中心にある王宮の庭園だ。

 

 とても見事な庭園である。

 

 それゆえに、どこを見ても人工的に整形されている。

 

 すべての植木は剪定され、花はまとまって咲いている。

 また、道に沿って植えられた木はどれもほぼ同じ高さ・形だ。

 

 僕は不自然な自然という、ちぐはぐとした感覚を覚えた。

 

「何者だ!」


 僕が意味のない感慨に(ふけ)っていると、槍を持ち鎧を着た騎士たちが駆けつけてきた。

 王宮内で、なおかつ見晴らしも悪くはないところで、いきなり魔法陣が浮かび人が現れたのだから当たり前か。

 

「衛兵長、私だ! クレア・レーガン・ファルシウェン、ただいま戻ったぞ!」


 クレアが前に出て名乗り上げた。

 

「クレア王女殿下でしたか! 失礼致しました、しかし王都に戻ったという連絡は伺っておりませんが如何したのでしょうか……それに先ほど光ったものは……?」


 騎士は槍を引き、直立不動になりながら言った。


「ああ、王都の防壁の門はくぐっていない。今ここに直接、賢者様のご自宅から転移魔法で飛んできたのだ」


「な、なんとあれは転移魔法でしたか……。して、その賢者様はどちらに?」


 ……まあ一目で分かるような威厳は僕にはない、わかっていたさ。

 

「この方だ。絶対に若く見えると侮るな。エンシェントグラウンドドラゴンを手玉に取る、まさしく伝説のお方だ」


 クレアが熱く説明してくれた。

 その心意気は嬉しいが、これは逆に恥ずかしい。

 

「ああ、僕が賢者と言われている者だ。……悪いが名乗ることはできなくてね」


 衛兵長は怪訝そうな顔をした。


「あたしはウェルティナよ」


 精霊であるウェルティナが名乗りでると、衛兵長以下が頷き納得した様子になった。

 悲しいことに、僕はとても胡散(うさん)臭いらしい……。

 王女の言葉は素直に聞き入れてほしいものだ。

 

「遠路はるばるようこそいらっしゃいました、賢者様に精霊様。ただいま王宮に案内いたします」


 衛兵長は何人かの衛兵を先触れとして走らせ、僕たちを先導した。

 

 

 ***



 宮殿内に入ってもその華美さは変わらなかった。

 

 石造りの建築物は、曲線と直線が実用性と芸術性を両立させながら存在していた。

 彫刻なども主張し過ぎずに全体を引き立てている。


 これを設計した人間は素晴らしい才能があったのだろうと感じた。

 

 

 ――人の心を打つ芸術には数学が宿っている。

 

 こうすれば人に受けるという卑しい打算的なものではない。

 人の心を引き付けるにはどうすればいいのかという命題に対して、模索し続けた結果として数学に行きついてしまうのだ。

 

 そうした計算の果てに、目の前の調和した美しさがあるのだと考えると感動を覚える。

 

 僕は庭園よりも、この建物を好ましく思った。

 

 しかしこの建築物は、自然物の石を切り出し削って造られたものだ。

 だというのに僕は、庭園の木々とは違うものを感じている。

 

 僕は、生きているかどうかで明確に線引きをしてしまっているのだ。

 木も石も、世を廻り形作っている自然そのものだというのに。

 

 もしかしたらこの宮殿の建材を揃えるために岩山が更地になったかもしれないし、そこに生えていた木々はすべて切り倒されたかもしれない。または、それによって生息地が(おびや)かされた動物もあったかもしれない。

 

 そういう背景がある可能性だって多分にあるはずだ。

 

 でも僕は、いま目の前にあるものにしか、心が動かされない。

 

 頭でそう考えられることと、心が感じるものは同調しないのだ。

 

 なんて身勝手なことなんだろうか――。

 

 

 また意味のない感慨にとらわれていると、いきなり耳を引っ張られた。

 

「なにボーっとしてんのよ。王さまに会うんでしょう? しゃんとしなさい」


 ウェルティナにそう注意された。

 

 慣れない場所にいると、考えることも明後日の方向に行ってしまうようだ。

 気を付けよう。

 

 そして、一行と長い廊下を進んでいった。

 

「賢者様、父上が、いえ王がお会いするそうです。申し訳ありませんが、準備があるのでこちらで私たちはしばし待機ということです」


 そうクレアに説明され、アイラが戸を引いて通されたのは待合室のようだ。

 

 大きなソファセットと机が部屋の真ん中にあり、毛の長いカーペットが敷かれている。

 それでも部屋には随分とゆとりがあった。

 

 全員がソファに座ると、どこからともなくメイドが現れてお茶を淹れた。

 気づくとアイラもメイドたちに混ざっていたが、クレアたちが何も言わないので気にしないことにした。

 

 壁際に立ったメイドたちに落ち着かないものを感じながら、僕はカップを手に取り、一口飲んだ。

 

 その味は、よくわからなかった。

 

 


王様の名前どうしよう…

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