11話 王女の悔恨、賢者の昼食
本日二回目の更新。
王女クレア視点です。
なんということだろうか――――――。
賢者様との話し合いで私は驚愕し、悔恨することになった。
私たちの考えの浅さ、知識の不足が今回の危機を引き起こしたのだ。
私は国政に直接携わってはいなくとも国を導く王族としての責がある。
そのうえで言えば、大失態としか言い様がない。
賢者様の提示したその解決法は確かに国を滅亡から救うことができる。
しかしその対価として、どれほどの大罪よりも大きく深い罪を負うことになるだろう。
しかも、その罪は許されることがない。
そもそも公には罪とされることはない。法や掟などを破るような罪とは一線を画している。
これは責任なのだ。
私たちがよかれと思い独善的に行うのだ、それによって出る犠牲を容認しなければならない。
そして、それ程のことを行ったからには国を元通り、いやそれよりもずっと良くしなければならない。
そういう責任を負い続けなければならない。
事態が解決した後にも、私たちの正念場は待ち受けている。
***
話し合いは終わり、賢者様の家の食堂。
私たちは今、賢者様が作られた昼食をいただいていた。
「「「「…………!」」」」
無言だった。
無言で、素早く、しかし行儀を欠くことなく私たちは食べていた。
メニューは質素といっていいほどシンプルだ。
パン、スープ、ベーコンのソテー、サラダ。
だが、王族でも手に入るかどうか、またはまず見ることのない高級・伝説の食材がふんだんに惜しげもなく使われている。
アイシクルバイソンのベーコンやアイソーレーテッドイーグルの卵、精霊草、魔力が詰まり過ぎてほぼ魔法薬に近いトマト。
見たことも聞いたこともない食材もあった。
もともと、ここまでの道中わびしい保存食しか口にしていないとしてもこの料理は今までにないほどの美味だった。
しかも、口に入れるたびに疲労がとれて魔力が回復する。
料理という枠組みを超えていた。
そもそも料理の過程が普通じゃない。
魔法で一瞬で下処理が終わり、ひとりでに鍋に入っていく野菜。
フライパンは勝手に振られ、炒められていく。
また、皿が飛んできて自動的に盛り付けられていく。
極め付きはパン。
他と同じようにひとりでに練られ、魔法で早回しに熟成。
そして、賢者様はそれを窯に入れることなく調理台の上で焼き上げたのだ。
触らないよう厳命されたが、遮るものなく目の前で焼きあがるパンは興奮するものだった。
お邪魔でなければ見学したいと申し出たのは正解だった。
どんな大道芸よりも不思議で楽しくわくわくする光景だった。
私は料理はからきしだけど。
しかし手伝いを申し出たものの、賢者様に「お客は座って待ってな」と断られたアイラも隣にいたのだが様子がおかしかった。
「こんな、こんなの、料理じゃありません。反則です、殿下そうですよね……? こんなこと誰にもできません。だから、わたくしの存在理由と価値は食材と魔法以下ではないと言ってください……殿下!」
メイドのアイラにとって、アイデンティティーが崩壊する光景だったようだ。
私の腰に縋りついていやいやをしながら「捨てないでください」、「もっとお役に立てます」とか「メイドの誇り」だのうわごとのように言っていた。
今は、だいぶ落ち着いたものの料理を口に運びながら。
「…………おいしいです…やはり………………まけません……」
と、か細く呟いていた。
少し怖い。
「おかわりはあるし、いくらでも作れるからたくさん食べてくれ」
賢者様が言った、その途端マイクがおかわりを所望した。
うぬぬ、やはり男のマイクは食べるのが速い。
しかし、いかに賢者様がお優しいとはいえ、そのご厚意にああも甘えるのは一体どうなのか。
おいしすぎると言っても、私の守役としてもっとしっかりしてもらわなくてはなるまいに。
……。
…………。
………………まあ、この食事に罪はない。
「賢者様! おかわりをください!」
私は手を挙げて、大きな声で言った。
王女付きメイドのアイラ。
彼女は王女のお世話全般に心血を注ぎ、最高のスキルによってそれを行うことに自負を持つ。
殿下大好き、殿下のためなら火のなか水のなかな人。
このたび高すぎる壁にぶちあたり混乱する。