10話 賢者の憂目
それから僕は、端的に解決のために行うことを述べた。
「…………たしかにそれならこの事態を脱却できます。しかし……なんという…………、いいえ、私たちに他の選択肢はない。…………罪とはこういうことか」
クレアは真っ青な顔をして、言葉の途中からは胸元を握って吐き出すように言った。
「……なるほど。罪というのも生易しいものですね」
アイラもメイド服の裾を握って呟いた。
「だが、今生きる人命は救うことができるのも確かでしょう」
意外とドライなマイク。
いや騎士は常に物事の優先順位を違えてはならないのだから、元騎士ならば納得か。
「方法も驚きですし、その結果も恐ろしいですが。手段としての魔法は伝説、いえ神話に記されるような代物ですよ……!」
デリアさん、結構重たい話をしたのに食いつくのはそこなの?
もしかしなくてもこの人、研究系の魔術師か!
魔術師は主に、実践系と研究系、探究系という人種が存在する。
実践系はそのままの意味で魔術・魔法というものを手段として活用するタイプの人たちだ。魔力とその使い方、詠唱・魔法陣などの術式構成技術さえあれば魔術・魔法は使えるからだ。主に冒険者や騎士といった連中がほとんどで、稀に魔力バカという人間もここに分類される。
ちなみに魔術・魔法というのは、はっきりとした区別が存在しない。
魔術師界隈では、
魔法陣・儀式などに重きを置けば魔術
詠唱・手印などに重きを置けば魔法
としている。
もちろん例外も多くある。
話を戻そう。
次に一般の人はわかりにくい研究系と探究系。
研究系は魔術・魔法でどんなことができるのか、またどんな魔術・魔法があるのかという研究をする人たちだ。今この世にある魔術・魔法はこの連中がほぼ築き上げたものだ。その中には魔道具も含まれる。よく言えば自分の知識欲に忠実、わるく言えば困ったひとが多い。主に魔術・魔法に魅せられた研究者、また魔道具関係の職人がここに入る。
最後に探究系。これは、魔術・魔法というものの根源に迫ろうという人たちだ。なぜ魔術・魔法は存在するのか、どうして魔術・魔法を行使できるのかといったことを調べようとしている。そのアプローチは多岐にわたり、ある者は机にかじりつき、ある者は荒行に励み、ある者は思索に耽る。一風変わった人が多い。そして、この三つの系統では最も少数派だ。
僕はもともと実践系だったが、永く生きているのもあって研究と探究にも手を出している。
そして、デリア。彼女の目に宿る光を僕は知っている。
あれは根っからの研究系、好奇心の悪魔のものだ。
僕は一度ならず、あの研究のためなら何でもできるバイタリティーを持つ者たちにひどい目にあわされている。
「ねえ、彼女の目、あの目が怖いわ……」
ああ、ウェルティナ。君も幾度も彼ら彼女らに怖い思いをさせられていたね。
彼女には、ぜひ調べさせてくれ実験に付き合ってくれと研究対象、もといモルモットにされそうになったトラウマがあった。
僕の肩の後ろに隠れているが、震えが伝わってくる。
彼女のためにも流れを変えよう。
「さ、さて解決法も話したし時間的にはもう昼過ぎだ。ここで食事にして、それから動こうじゃないか」
僕は立ち上がりながら、努めて冷静に言った、はずだ。
あれ、私はシリアス回を書いていたはず。
どうしてこうなった。
ちなみに王女パーティはみんな変です。