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なまえ

「ただいまーっと」

 ヨーコが家に入ると、どこか先ほどと部屋の様子が違う。

 ぴたり、と生き物の息づかいが潜んだようだ。

 子猫はいたずらが見つかったのがばれたというように動きを止める。

「あ、パソコン付けたままだった」

 子猫が乗ったからか、でたらめなキーが検索サイトのフォームに入力されている。

 ヨーコは柵を買ってきてよかった、と袋の中のものを思い出した。

「そんなこと、しちゃだめだよ。さて、じゃあご飯かな」

 ヨーコは暴れる子猫をやっとのことで段ボールの中に戻し、子猫用のミルクを与える。

 警戒心はあるものの、自分でペロリペロリとなめているから、問題はないだろう。

 ヨーコは注意を向けつつも、柵や寝床、トイレなどの準備を始めた。

「名前は何にしようかな」

 ひとりごとを言う。

 だけど、私の手元を離れるとしたらつけない方がいいのかもしれない。そうヨーコが考えているとふと、とある単語が頭に浮かんだ。

「ファラオ! スフィンクスのあるエジプトで王様って意味だったよね。王様ならポジションだし、のちのち名前にしてもあんまり変じゃないかも」

「なあお!」

 子猫が一声鳴いた。

 気に入ったらしい。

「ふふ、君はファラオ。いいね」

 缶詰タイプのキャットフードをあげると、ファラオは満足げにうにゃうにゃ言いながら食らいつく。

 猫を飼うっていいなあ。ファラオを見るうちヨーコは自然に微笑んでいた。


 ヨーコは猫の飼い方の本や、サイトを参考にファラオをお風呂に入れた。

 想像していた抵抗はあまりなく、おとなしく風呂に入ってくれたので、ヨーコはほっとした。

「そういえば、獣医さんに連れて行かないと」

 最近は迷子防止のためにマイクロチップを埋め込んでいるペットもいるらしい。

 もし、迷子だったら奮発した用品は全部無駄になってしまうのかもしれない。

 少しどんよりした気持ちになりながらも、ヨーコはファラオを買ったばかりのキャリーバックに閉じ込めて、獣医に連れて行くことにした。

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