遭遇
彼がこの星に来て何日たったか。
二度外に連れて行かれた以外はヨーコの部屋で過ごしてきた。
どうやら捕えておくという概念ではなく、共に生活するゆるいスタンスらしい。とはいっても逃走したら困るらしく、ヨーコが出かける際には鍵はかけられてしまうのだが。
何とか出ようと思ったこともあったけれど、ここ最近は与えられる食料の他に高カロリーの「ごはん」という食べ物がとても美味しいし、ヨーコは興味深い遊びを仕掛けてくるので、しばらくは居てやってもいいかな、という気持ちに彼はなっていた。
体もそのおかげかみるみると元の大きさに戻りつつある。
(もう少しでまともに言葉を話すことが出来そうだな。そうなれば、端末を使って故郷に連絡も取れる)
文字での通信も普段音声入力にしていたため、うまく端末機器が動作しなかったのだ。
彼は適度に運動をしたり、ヨーコがいない間にどうにかこの星の情報を得ようと、パソコンという機器に触ってみたり、存分に休息をとってその時を待っていた。
「はぁ、本当にササキ君って猫好きなんだな」
ヨーコがため息を吐く。ちらりと彼のほうへ視線を送った。
ヨーコが扱うのは彼の使う端末によく似たものだった。きっと外部との連絡を取っているのだろう。
「ファラオは……ま、けっこう図太そうだから、ササキ君が家に来てもいいかなあ?」
いつも聞かない名前に彼は首を傾げた。
ヨーコはいつもより念入りに掃除を始めた。
ピンポーンと来訪者を知らせる音が鳴った。
「こんにちは」
ヨーコより背の高い人間がやってきた。
「ササキ君いらっしゃい」
ササキと呼ばれた人間はじろりと彼を見つめる。
「ササキ君?」
「いや、なんでもない。おじゃまします」
ササキはヨーコと座って何かと話をしているようだった。彼と似た生物に詳しいようで、ヨーコと話している間も目線はチラチラと彼のほうを向いている。
ピンポーン
再び人の訪れを知らせる音が鳴った。
「あれ? なんだろう、ちょっとごめんね」
ヨーコはササキにそう言うと出入り口へと向かった。
すると、ササキはおもむろに彼のほうへ向いて口を開いた。
「君は僕たちの言葉がわかるんだろう?」
彼は背中の毛を逆立てて三歩後ろに下がった。
「なうまうあうあんじゃなぬ」
次に聞こえてきたのは懐かしい故郷の言葉で、「わたしはおまえの正体を知っている」という意味だった。