第1章ー1
第1章
1
永田は時計を見て、貧乏揺すり、足踏みをしていた。殺書の第一回を前に緊張と焦燥感の中、苛立ちが顔に現れていた。天気は曇りで今朝は雨が降ったばかりなのもあっただからだろうか、無性に感じる違和感の蒸し暑さのじめじめが肌に当たり、永田をさらに苛立たせていった。苛立ち発散のため、すこし蹴った地面も外れ、転びそうになり、羞恥心の意が少し宿った。もうこんなウザい世界ならいっそこの『神』の力で消してやろうとも少し考えたが、かつてからの世界の掟があったにも関わらず、ここで終わらせるのはもったいない。などと考えているうちに、すぐ後ろにある女が来ていた。
「おお、来たか。『創造者』よ。」
「その呼び方はやめて。怪しまれるわよ。私にはちゃんと本名もある。」
「ほお。だが俺はそれは、聞いてないぞ。」
「新田 詩歩」
「ふはははははははは。」
「なにが、おかしいの。消すわよ」
といって、詩歩は拳銃を向けた。
「やめな、やめな。俺には今のお前より力をもっている。」
「ふん、そうかもしれないわね。でも油断してるとやられるわよ。」
といって詩歩は拳銃を閉まった。
「誰にだよ、ふはははははははは。お前がやるというのか。」
「もう時間。本題だけ伝えて私は去るわ。佐上からよ。」
「佐上?」
「私らの組織のトップよ。」
「まだ、ウエがいたのか。恐ろしいもんだな、本当に。」
「『明日がついに最初の予定日だ。しっかりやれ』とのことです。」
「ただのおせっかい事か。苛つかせるぜ。」
「消すわよ。」
「ふん」
「じゃあ、私はいくわ。なお、あなたは私たちの監視下にあることを忘れないで。」
「…………」
詩歩は消えるように永田の部屋から去っていった。
※※※
俺は普通の高校1年生だ。今は春休みで浮き立つ春日和と2年生への気持ちを胸に心も弾んでいた、はずだった!1か月前のヒゲキが訪れるまでは。2月1日に襲った災害によって、俺は、いや俺らは被災地に強制ボランティア、いや強制労働を強いられていた。火山ガスの影響もあり、黒い空の下、無惨な赤と地面のコントラストの中、働かせていたのである。春なのに感じる妙なじめじめ感や目の前のヒゲキの惨さを前に俺は吐き気をしていた。だが、春休みもエンジョイしたいという思いで、さっさとノルマを終わらせよう。ら
などと考えていた雪生であった。彼には気づいていないことだが、なんとこの仕事、雪生だけ、いやもっというと、選ばれし者だけノルマが多く設定されているのである。選ばれし者、それは2月4日に世界を覆ったなぞの光線を吸収し、超能力者となりえた者である。その超能力者は2月5日、ある女性の訴えで知られ、全国でその診断が開始された。それによって、超能力者はリストアップされ、労働でコキを使われる者となっていた。そしてこの雪生も超能力者の一人なのである。あの日、手に違和感を感じた雪生、雪生の得た能力は『手力』というものであった。手から今のところ無限と言われしもの力を操ることができる、というものである。この力を得て、彼自身は得をしたと考えている。可愛い女の子をヤクザから救い、リア充にもなれ、この仕事は捗ると。しかし、この能力は感情の制御が重要で下手をすると人殺しになるという危険もあった。あとこの能力を得たということは、世界の雑用になるということともに、ある使命を受け取ったということでもあった。雪生はまだそれを気づいていないだろうに……。
「雪生ー、もういいぞー!」
「え!もうこれで完全に終わりですか!?」
「今日はな。」
「えー!まだ終わらないんですかー!」
「ああ、もうちょっとだ。」
係員も雪生を怒らせて、雪生に能力を使われては困るということから、遠慮ぎみにこの雑用者を騙す方向に試みていた。
雪生にとってくそつまらない淡々とした春休みの日々はこのようにして流れていった。春日和を感じさせない中、今日は妙に肌に触れて感じる謎の違和感。今夜は雨になるだろうか、夕立でもくるだろうか、などと雪生は感じていた。
今朝雨降ったばかりなのに…………。
そして日は暮れる始める。
「雪生、今日はもう終わりだ。」
「本当ですか!!やったー!!やっとおわたー!!」
「よし、本当によく頑張ってくれた。おつかれ!」
言ったのは係長であったが、これもどうも遠慮っぷり、気の使いっぷりが滲み出ていて滑稽なものであった。そんなことも感じようとしない呑気な少年、雪生は違うことを考えていた。
"何か嫌な予感がする"
日は暮れなかった。正確には日が暮れることによって辺りが暗くなった訳ではなかった。この関東の世界一面を黒い乱層雲?積乱雲?が覆ったのである。
そして雨は降り始める。
※※※
「ふははははははは。気候的には最高のコンディションだ。さすがはこの力『神』。明日がつきに俺の初の結構日。愚者どもよ、死ね、死ね、死ね!!」
と一人、部屋の中、窓の外をみて永田は叫んでいた。タウンページを題に読んでいたのは、やはり殺書であった。すべては計画通りと考えながら、永田は無性に怪しげな笑みを浮かべていた。
ここ、関東の空の下……
※※※
違和感を感じて眠れない夜。明日も雑用はある。疲れもたまってるし、寝なければならないことは重々承知なことではあるが、俺の16年間とこの力からの不思議と感じる勘が俺を何かに対する迷いへ導いていた。家の閉めきった空間でも身に触れてやけに感じるこのじめっと感、外の大雨という天気。やるせない気持ちもあった。だが俺の本当に本当の本音はそんなとこにはなく、2月1日を思い出させるものだった。
"またまさか、あの悲劇が…"
あの被災者には申し訳ないが、俺は知らない死んだ方々をどうこう考えることはできない。俺が考えるのはあくまで、知り合い以上の関係の中である。まあ、その中でも嫌いなやつもいて、死ねばいいのにと考えてしまっているやつも、正直いないと言えば嘘になる。だがしかし、俺にだって大切な人だっている。両親、兄弟、友人、先生、近所の人など他にもたくさん、俺のこと助けてくれたり、支えてくれたりしている、本当に感謝している人たち。俺が怖いのは2月1日のような事がまた起きて大切な人を失うことだ。できることなら、この『手力』で助けたい。しかしこの力は疲労という代償がついてくる。この力で、ある大気に密度を集中させ、バリアを作ることは可能だが、すぐ息も切れてなが続きしないし、そもそもそんな広範囲に張れない。だから俺はこれから来そうな天災に対する俺の能力の活用の仕方をただひたすら考えて眠れないでいたのだ。などと雪生が考えていると
がたん
考えに回想しすぎて、自分の世界に入りすぎて、寝返りの勢いでベッドから落ちてしまった。
がちゃっ
「……おにいちゃん、どうしたのう~」
「ちょっと、ベッドから落ちちゃって。ごめん、起こしたね。」
「ええ、おにいちゃん、大丈夫なの………」
「う、うん。全然大丈夫だ。心配ありがとう。」
「………ならよかった~、おやすみ~」
「あ、うん。おやすみ」
入ってきたのは髪の毛ボサボサ、熊を抱き抱えた、青の水玉の中二の妹だった。寝ていたこともあったが、それでも顔は何ともかわいい風貌であった。この兄妹はどんな関係にあるかは怪しいところだが、兄は少し動揺しているように見えた。妹を見た安心感か知らないが、雪生はそのまま寝についた。
時刻ははや、2時を回っていたが………。
※※※
私はいじめられっ子だった。でもあの日、そんな私に与えた力はまさに希望とも言えた。
私の得た能力は右手を広げて前に向け、力を入れることで透明の壁を作ることができる。
能力『盾』
私はもう、負けない。