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瑞希ちゃんに目を向ける。俺の疑問を察してくれたのか、彼女はこう付け足した。
「末森さんの言う通りなのです。このお店に来て下さるお客様のほとんどは、何かしら悩みを抱えた方ばかり……。永音さんに、そういう方達の助けになっていただきたい、と、末森さんはお考えなのです」
そうだったのか。俺のいないところで、末森さんと瑞希ちゃんはそんな話をしていたんだな。
二人が俺を頼ってくれるのはとても嬉しいし、誰かの役に立てるのは何よりだ。でも、俺なんかが、そんな重要なことをホイホイ引き受けてしまってもいいのだろうか?下手したら、俺に関わった人の人生を悪い方に変えてしまうかもしれないのに。
それから一週間、俺は悩みつくした。『言魂』には行かず、ひとりで。
そういえば、あの後もタマは結局起きなくて、俺が家に帰るまで一言も話さなかった。
「うじうじと悩んでるヒマがあるなら、早くコレを片付けるなり!」
机の上。宿題の山を見て、タマが言った。あの日おとなしかったのが夢のように、今はすっかり元気なタマに戻っている。
「はいはい。今やりますよ」
俺は穏やかに返し、シャーペンを手にする。夏休みって、何でこんなに宿題多いんだろ。中3の受験生に対し、これはヒドい仕打ちだぜ。
シャーペンを持ち机に向かってみるものの、やる気は起きず、イスの背もたれに寄り掛かりあくびをする。響やユイのように、塾の夏期講習にまで行っちゃうバイタリティ、俺には皆無だ。
「そういえば、君が忙しそうに考え込んでばかりいるせいで話しそびれてたなりが……」
タマが話しかけてくる。
どうせ宿題をやる気にもなれないし、と、俺はタマの話に付き合うことにした。
「あの店、少し妙な感じがするなり」
「言魂のことか?」
「そうなり」
全身を前に傾けることで、タマはイエスを示す。




