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「なぜ、私達に対し、そこまで良くして下さるのでしょう?」
ディアが言った。
「他人も同然。異世界から来た私達を、あなたはなぜ、少しも怖がらないのですか?この国には、無能力の者しかいないと聞きましたが。少なくとも、この国では、私達は異質な人間。
末森さんとおっしゃいましたか……。そんな風に冷静でいられるあなたも、実は日本の出身ではないのでは?」
「ほっほっほっ。そう言われると思っとった。ワシも、自分はマイノリティーなタイプだと自覚しとるからな」
あんな風に言われて、こうやって笑い飛ばせるのもすごいよな。さすが末森さん、と、言うべきか。
末森さんはマグカップに残ったわずかなコーヒーを気分良さそうに飲みほす。
「ディア君の言う通り、ワシは普通の人間とは違うんじゃ。というのも、昔、変わった経験をしたからかのぅ。実は……」
末森さんは、子供の頃、魔法使いにケガを治してもらったことがある、と、話した。
「君達がまだこの世に誕生していない、ずいぶん昔のことなんじゃが。
当時ワシは、こことは違う緑豊かな田舎に住んでおった。現代のように遊ぶ物も無かったし、エンターテイメント的な施設も皆無じゃったからの。自然そのものがワシら子供の遊び場だった。木登りをしたり、近所の畑を走り回ったり、夏には川で泳いだりもした。
ワシは、大人を困らすのが大好きなイタズラ坊主での。ワンパクだった。
ある日、隣の家の二階の屋根に登って遊んどった時のこと。いつも通り、高い場所から手を振って皆を驚かせようとしとっただけなのに、その時に限ってワシはうっかり足を滑らせてしまっての」
想像し、俺は思わず両目をかたくつむってしまった。瑞希ちゃんとディアも同じような反応をしているのが、空気で分かる。
「そう、君達の想像通り、高い位置から地面に落下したワシは、その衝撃で腕と足の骨を折って、その場から一歩も動けなくなってしまったんじゃ。もしかすると、他の骨も折れていたのかもしれない。今まで体験したことのない激痛が全身を貫いたからの。
大人達から、毎日注意されていた。元気なのはいいことじゃが、決して危ないことはするな、と。なのにワシは、好奇心に負けて言いつけを破った。仕方ない、自業自得じゃ。
泣きながら助けを待つしかなかった。痛みで声を出すことすらできんかったからのぅ。
しかし、さすがに屋根に登っていたとまでは思われてなかったらしくての。ワシは誰にも気付いてもらえず、ただただ痛く苦しいだけの時を過ごした。
一時間程経った頃かの。もう、このまま誰にも見つけてもらえず死ぬのかもしれない――。
落下した場所から動けず気を失いかけていたワシを見つけてくれたのが、ひとりの美しい女性だった。おそらく、二十歳くらいだろう。
彼女は、地面に転がったワシの肩に手をそえるだけで、あっという間に全身のケガを治してしまったんじゃ」
それ以来、末森さんの前にその女性は現れなかったそうだ。




