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「つまり、便利屋になれ、と。お前は私にそう言っているのか?」
「そうだね、そういうことになるかな」
「なるほど……」
ディアは腕組みをする。検討中のようだ。
「フォントオーディスを離れ、この土地で……。引っ越せなくはないがな。貯金はある。しかし、それで本当に生き延びられるのだろうか?」
大きな決断の前は、やっぱり色々考えてしまうよな。あらゆる未来への分岐点だし……。
考え込むディアにつられるかのように俺も口を閉じ、彼を見守る。
ディアの迷いを綺麗さっぱりさせたのは、瑞希ちゃんの後押しだった。
「日本はいいところですよ。蕎麦がとても美味しいですし、玄米茶は香りが豊かで体にも良いのです。ぜひ、日本で一緒に、新しい一歩を踏み出してみませんか?」
「む……」
おっ!ディア、考えてる考えてる!
「私は、フォントオーディスを離れられるのだろうか?オラルメンテ認定協会から裏仕事しかもらえなかった未熟な私が……」
「ディアさんは立派な魔術師です。ディアさんが望むのなら、いつだって変わることができますよ」
瑞希ちゃんの言葉に重ねるように、俺も口を開いた。
「俺も、そう思う。変わりたいと願った時から、人は変われるんだ。ディアは、どんな道でも歩けるよ!」
この時、願いを叶える言魂使いの能力を使ったことは内緒。
ディアのこと、他人事とは思えなかったんだ。
昔、母さんがリストラされて、世の中は厳しいと思った。どうして俺達だけが嫌な目にあうんだろうって……。
でも、そうじゃない。皆、平等に嫌なことはあるし、逃げたくなることもある。タイミングが違うだけ。
良いことと悪いことは誰にでも起きるけど、心の持ち方ひとつで、自分の見る景色を暗くも明るくも出来るんだ。




