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彼女の心の内を読んであえてはぐらかしたのか、ディアは軽い口調で、
「魔法攻撃のレベルがなかなか上がらない。そういった悩みか?昔はよく、そう言いながら私の書庫に駆け込んできたな。心配するな。この前君が私に放った風魔法を受けて感じたんだが、前よりずいぶん上達していた」
「違うのです、ディアさん。魔法のことではなくて……!」
瑞希ちゃんは勢いよく席を立ち、前屈みでディアの顔を見つめた。
「ディアさん。あなたに仕事を流しているのは、どなたなのでしょう?その方はオラルメンテ認定協会の裏切り者なのです。知っていることを、私達に教えていただけませんか?」
ディアは長いため息の後しばらく間を置き、諦めたように口を開いた。
「正直に話したら、君は、私の仕事に関して口出しせず見て見ぬフリをしてくれるのか?」
「それは……!」
おい、そんな交換条件を出すなんてズルいぞ!!
俺がそう言おうとした瞬間、ディアの無力な声が告げる。
「……と、言いたいところだが、君の質問に、私は答えられない。仕事を流してくれる者と、直接会ったことがないからな。だいたい、いつ仕事を辞めるか分からない日雇いの魔術師なんかに、協会の裏切り者が正体を晒すと思うか?」
「……それもそうですよね……」
それきり、瑞希ちゃんはうつむいてしまう。
よく考えたら、そうだよな。ディアだって、協会の誰かが悪いことしてるってのは承知の上で、裏稼業に手を染めたんだ……。
分かるけど、でも、やっぱりスッキリしないな。瑞希ちゃんも俺と同じ気持ちだと思う。彼女の顔を見て、わかった。
「ディアは、このままでいいの?」
俺は尋ねた。
「裏稼業って、言葉通りそのままの意味で、悪いことして稼いでるって意味じゃん……。その……。やっぱり、まっとうなことしてお金もらった方が、ディアとしても気が楽なんじゃないかと思って……。俺には、ディアの国のことはよく分からないけど……」
働くことの大変さも経験したことないくせに偉そうなこと言ってしまったかな。口にした直後、反省した。
やはりと言うべきか、ディアはそっけない口調で、
「分からないことに首を突っ込むな。迷惑だ」
「ディアさん、永音さんはあなたを心配して下さっているのですよ」
瑞希ちゃんは茶色のボブヘアを揺らし、大人びた顔つきで言葉を継いだ。
「私も、永音さんと同じ意見です。それはもう、ディアさんも分かってみえるかもしれませんが……。
改めて言わせて下さい。非合法な仕事をするのは、もう辞めてほしいのです。オラルメンテ認定協会の者しか知り得ない様々な気密情報を魔術師のディアさんが知ってしまう今の状態は大変危険です。協会の上に立つのは言魂使い。言魂使いの能力は、強すぎる――。そうでなくとも、協会の中には優秀な魔法使いが出入りしています。あなたの身に、いつ何が起きても不思議ではありません」




