◆
ハンバーグの準備をしながら、瑞希ちゃんは話してくれた。
「魔法薬の調合はとても難しく、レシピ通りに作っても失敗することの方が多いのです。土地や気候の違いによって、薬の性質や作り方も微妙に変化しますから。やっている最中は楽しいのですけど、失敗続きでめげそうになることもあります。
生まれながらに才能のある魔法使いは、レシピを見ることなく調合を成功させてしまうのですよ。
魔法学校を首席で卒業するような方は、教科書に記載されたレシピをほとんど見ず、オリジナルの調合をどんどんやっていました」
俺達の世界――地球と同じで、魔法使いにも色んなタイプがいるんだな。
「私のような出来損ないの魔法使いでも、調合をマスターし、成功を重ねたいと思うものなのです。
攻撃魔法を好む魔法使いは多いけれど、魔法薬の調合は魔法使いにしか出来ないこと。
私は、無力ゆえに傷を負う大勢の人々を、自分が調合した魔法薬の力で助けたいのです」
俺を含む地球上の人間には考えもつかないことだ。科学薬品も万能ではないから。
「魔法薬には様々な種類のものがあります。自然治癒力を高めるもの、興奮した気持ちを鎮めるもの、一時的に体力や能力を上げるもの。
私は思いました。
異世界にまで来て修行するからには、それら全ての薬を作れる魔法使いになるのだと。
でも、望みを強く意識しただけで、そんなにうまくいくわけがありません。
そこで、末森さんがアドバイスを下さったのです。一気に色んな薬をマスターしようとせず、まずは、一種類の薬を完璧に作ることを目指せ、と」
「もしかしてそれが、俺達が初めて会った時に瑞希ちゃんが作ってた……?」
「はい。あれは、人の記憶を部分的に消す魔法薬でした。『消す』というのは語弊がありますが……。
正確には、つらい記憶を薬の効果で包み込んで深層心理にしまう、という仕組みです」
「深層心理なんて、普段は意識しないもんね。精神科医もビックリな効果だと思うよ」
「そうかもしれませんね。それだけに、非常に難しい調合になります。
人は、心の奥にある傷を完全に忘れることはできません。深層心理に影響されて無意識のうちに取っている行動が、実生活に支障をきたす場合も少なくありません。それを和らげ、トラウマからも開放される、そのような薬を、私は作りたいのです」
「瑞希ちゃんなら、いつか成功できるよ」
素敵な夢だ。俺も応援したい。
「ありがとうございます。永音さんにそう言っていただけると心強いです。それに、末森さんも、調合に対する私の想いを理解して下さっていて。さきほどのシナモンパウダーもそうですし、おかげで、私の用意する材料は最小限で済みます。ありがたいことです、本当に」
そういえば、と、瑞希ちゃんが口を開く。
「永音さんは、あの薬の煙を嗅いでイチゴの匂いがしたと言ってみえましたね」
「んー、そうだったかな?」
まだ覚えてたんだね。恥ずかしいから、この話題は避けたい。
俺は曖昧にごまかした。




