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「タマ、大丈夫か!?」
「ミーの体はぬいぐるみで出来ているなり。ケガなんてしないなり」
良かった。タマの体のことは分かってるけど、あんな激しくビンにぶつかっていったら心配するって。
カウンターでそっぽを向くタマは難しい顔をしていたが、今はそれどころじゃない。
「瑞希ちゃんは大丈夫だった?ケガしてない?」
「大丈夫ですよ。永音さんは平気ですか?」
「うん、大丈夫。ビンの中の物、末森さんの物だよね?ごめんね。俺、代わりの買ってくるよ」
「いいえ、それは私の魔法薬なのです。原材料のほとんどはシナモンパウダーですけれど」
「だったら、シナモンパウダーだけでも弁償するよ。タマのせいで割っちゃったんだし……」
言魂使いを導く者とはいえ、普段は何も出来ないストラップだもんな。
ここは、タマの持ち主である俺がビンごと中身を弁償するのが当然だろう。
しかし、瑞希ちゃんはそれを拒んだ。
「シナモンパウダーは末森さんに分けていただいたものなのでタダですし、この魔法薬も、実は失敗作なのですよ」
「そうなの?こんなにいい色なのに……」
魔法薬のことを1ミリも知らない身でこんなこと言うのも変かもしれないけど、失敗作とは思えないくらい綺麗な出来だった。
俺は、ガラスの破片に混じって床に散らばったシナモン色の粉を見つめた。瑞希ちゃんも寂しそうにそれを見つめている。
「失敗作なのだから捨てなくてはならないと思っていたのに、使い道などないと分かっていてもなかなか捨てられなくて。どの薬も、作っているうちに愛着が湧いてしまうのですよ。
でも、調味料と間違えられたら大変ですので、こうして捨てる機会が訪れてホッとしているのです。タマさん、ありがとうございます」
「……ミーはもうちょっと寝るなり」
タマは、自分が割ったビンのことについて、何も話さなかった。
タマのやることに、無駄なことなんてないはずだ。何か、理由があるはず。それは、今すぐ知らなきゃならないってほど重要なことではないのかもしれないけど……。気になった。




