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瑞希ちゃんは席を立つと俺の手を取り、
「成功ですね!永音さん、本当にありがとうございます!」
「ううん。瑞希ちゃんの願いが叶って良かった」
頬をこわばらせ感動をあらわにする瑞希ちゃんと対照的に、俺の気持ちは意外にも冷静で、自分でもビックリした。他人を操る能力を使った後は、もっと嫌な気持ちになるものなのだと思っていたから。瑞希ちゃんの喜ぶ姿を見ていたら、こっちまで嬉しくなってくる。
なんだろう、胸があたたかくなる。これが、人の役に立つってことなのか?
何はともあれ、意識して力、使っちゃったんだな、俺。
そして、今、背中には白くて小さい模様が刻まれたんだろう。
穏やかな雰囲気の瑞希ちゃんと俺。
一方、ディアの顔はこの上なく不機嫌そうで、俺が今感じていた喜びや安堵感、その他もろもろは一瞬にして恐怖へと変わってしまった。
この前と同じ青装束のクセに、ディアの全身から放たれているオーラは赤っぽい。
ディアは、俺の一生に呪いをかけてしまいそうな、ものすごい形相でこっちに詰め寄ってきた……!!
「お前!この前会った言魂使いじゃないか!!まさか、その力を使って、お前が私を呼び出したのか!?」
「うん、そうだけど……」
「これだから言魂使いなんて大嫌いなんだ!」
怒り顔のまま、ディアは訴えた。
「人権無視もいいところだっ!私が今、何をしていたか知っているか!?」
「何をしてたの?」
「飲まず食わずの96時間労働を終え、ようやくシャワーと昼食と睡眠にありつけるとこだったんだ!」
96時間、丸四日も眠らず、仕事してたのか!?しかも、何も口にせずに!?
「なのに、お前がこんなとこに呼び出したせいで私は、スペシャル合挽きハンバーグのミラクルランチを食べ損ねたんだぞ!」
「ごっ、ごめんなさいっ、そうとは知らなくてっ」
あまりの剣幕に、俺は恐々と謝るしかなかった。
っていうか、この黒髪イケメン、だいぶキャラ変わってないか!?この間学校で響を襲ってきた時は、クールで近寄りがたい、イヤミな感じだったのに。
「弁償しろ!ハンバーグ~!!私の愛しい合挽きハンバーグを~!付け合わせのブロッコリーとニンジンもな!」
完全に壊れてる……。それだけ、その店のハンバーグが好きなんだな、ディアは。
丸四日寝ずに働いてたせいもあるのかもしれない。とはいえ、初対面の時とイメージが違いすぎて、逆に何て言葉を返したらいいのか分からない。
なんていうか、こんなにコミカルな人だとは思わなかった。
……いや、違うな。俺が力を使ったせいだ。ギリギリのところでディアを支えていた彼の理性のストッパーが、言魂使いの力を受けたことで外れてしまったんだ。
ディアは、言魂使いを嫌ってるもんな……。改めて、切なくなる。
わんわん泣き叫ぶディアを見て、この辺だとどの店のハンバーグが美味しかったかなと思考を巡らせていると、瑞希ちゃんが俺達の間に入ってくれた。
「ディアさん、食事の邪魔をしてしまって本当にごめんなさい。永音さんは悪くないのです。あなたを呼び出すよう永音さんにお願いしたのは私なのです」
「そっ、そうだったのか」
「今すぐ、ハンバーグの用意をしますね。ディアさんが食べようとしていた物には劣るかもしれませんが、美味しいと評判のお店のハンバーグを、先日通販で大量注文しておいたのですよ。お口に合うと良いのですが」
「すまないな、頼む。君の用意してくれた物なら喜んでいただこう。感謝する」
ディアは床に倒れ、そのまま寝てしまった。相当疲れてたんだな。ごめんなさい。




