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ディアに襲撃された日の放課後、俺は末森さんと瑞希ちゃんが働く『言魂』に寄った。
その時、瑞希ちゃんと俺は連絡先の交換をしたのである。
占い師の瑞希ちゃんには通信手段など必要ないのかもしれないが、あると便利だと言われ、彼女は末森さん名義のスマホを持たせてもらっているらしい。
常に水晶でコンタクトを取られてもこっちは(プライバシー的に)ちょっと困るし、瑞希ちゃんの水晶通信は俺から彼女に話しかけることはできない一方通行式だから、そういう意味でも瑞希ちゃんがスマホを持っててくれると俺としても助かる。
居候の魔法使いにそこまでしてあげるなんて、末森さんって本当に世話好きな人なんだな。末森さんにとって、彼女はもはや孫のような存在なのかもしれない。
そんなわけで、それから毎日、俺と瑞希ちゃんは他愛ないメールのやり取りをしていたのだが、彼女との肝心な約束事はまだ果たせていなかった。
俺の力でディアを呼び出し、裏稼業を辞めるよう説得すること。オラルメンテ認定協会の裏切り者を突き止めること。以上の二件だ。
夏休み初日の朝。クセでいつも通りの時間に起きてしまった。
せっかくの夏休みなんだから、と、フワフワした気分で二度寝しようとした俺のナマケモノ精神を消し去ったのは、瑞希ちゃんからのメールだった。
普段は短文しか送ってこないのに、彼女が今朝くれたメールは珍しく長めの文章だった。
《永音さん、おはようございます。
今日、何か予定はありますか?
もしお時間がありましたら、店に来てくださいませんか?》
もちろん、言われなくてもそのつもりだよ。学校のある時は、さすがに毎日は行けなかったもんな。
《末森さんは用事があるそうで、今日一日店には出ないとおっしゃっていました。なので、私の方も、占いのお仕事を休んでも良いと言っていただけました。
ディアさんの件なのですが、近いうちに進展があると嬉しいです。
永音さんもお忙しいのに、無理を言ってしまい本当に申し訳ありません。
――瑞希――》
瑞希ちゃんは命の恩人であり、思い切って学校に行くと決めた俺を応援してくれた大切な友達。俺にできることなら、何でもしてあげたいと思ってる。
けっこう早い時間に電車に乗り、朝日を感じつつ店に向かった。
途中の交差点。
押しボタン式の信号で歩行者用の横断歩道を渡ろうとしたら、信号無視した車に危うくはねられそうになってビックリした。
悪いのは運転手のおじさんの方なのに、俺に鬱陶しいと言いたげな顔で、その人は走り去っていった。
こっちもムッとしたけど、せっかくの夏休みだし、と、気持ちを切り替えた。
俺達学生は夏休みで浮かれ気分なのに、電車内にはサラリーマンやOL、体育会系の大学生がたくさんいて、思わず目を見開いてしまった。
大人には長期休暇なんて無いんだな。母さんも、俺の夏休みに関係なく毎日働いてくれている。
将来、俺はどんな大人になるんだろう。出来ることなら夏休みの無い仕事はしたくないな。なーんて……。
妙にリアルに考えてしまった。
現実を漂わせる駅のホームを抜けると、歓楽街のはずれに位置する裏小路を行った。
『言魂』に到着。




