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「それに、響はワガママじゃない。俺も響と同じ状況に立たされたら、好きな人と親友、どっちも失くしたくないと思うだろうから」
できれば、三角関係なんて二度とごめんだけど、今回は仕方ない。それだけ、俺達にとってユイは特別な人だったんだ。
「あと、響のこともう怒ってないから、気にしないで。ユイとも普通にしゃべるし、今まで通りでよろしく!」
「永音、ありがとう!」
俺達は改めて握手し、友情を再確認した。
意地やごまかしなんかじゃなく、心から響を受け入れることができた。この日のために、苦しい不登校期間があったのかもしれない。
ユイのことは当分引きずるかもしれないけど、前みたいに暗い気持ちじゃないし、いつか良い思い出にできるだろうなって気がしてる。
皮肉なことに、ディアのおかげで響の大切さに気付いたんだ。
ディアに響を連れ去られ、これまでにない危機感を覚えた瞬間、俺は、響と過ごした今までの時間を思い出した。ううん、『思い出した』なんて悠長な感じではなかった。
目に見えない塊が全身にぶつかって弾けたんだ、一瞬のうちに。その塊の中に、響と過ごした時間全てが詰まってたんじゃないだろうか。
避けたり、嫌ったり、逃げたり、そんな時期もあったけど、将来、過去の自分達を見て「そんなこともあったな」と、懐かしく想う時が来るのかもしれない。
言魂使いとしてはまだまだだけど、響を危険から守ってくれた瑞希ちゃんのおかげで、心残りはひとつ解消できた。彼女がいなかったら、今頃どうなっていたか……。
これからは、むやみに乱暴な発言をしないよう、充分に気を付けなくては……!
中学生ライフ再スタートにも慣れ、不登校中に乱れていた生活リズムがようやく元に戻った頃、夏休みが訪れた。
期末試験に進路相談。熱心に受験を考えてるわけじゃない俺でも、中3の学校生活は忙しいんだな、と、ひしひし感じている。
夏休み中も、高校見学に行ったりしないといけない。それでも、俺は、いまいち受験生らしいシャンとした気分になれなかった。
せっかくの夏休みなんだし、できる限りゆるゆる過ごそう。
ユイと響は、口では軽いことを言いつつもけっこう真剣に進路を考えてるらしく、夏休みには大手学習塾の夏期講習に参加すると言っていた。
「永音も行くだろ?夏期講習」
「ごめん、俺はやめとく。自力でがんばるわ」
俺も誘われたけど、タマと出会った日から一般ピープルでなくなってしまった俺は、受験以外にやるべき大事なことがあったので、夏期講習は申し込まなかった。
ウチの母さんが教育ママじゃなくて良かったと、今年ほど安堵した年はない。
夏休み初日から、俺は『言魂』に入り浸っていた。




