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俺にどこまで出来るか分からないけど、ディアと話をしてみる。
オラルメンテ認定協会を裏切っている者の正体を聞き出し、瑞希ちゃんの願いを伝えてみせる。
前の俺なら、『絶対できない』と思っただろう。
でも今は、ちょっとだけ自信が持ててる。ユイと話せたし、響とも仲直りができたから。
いや、ちょっと待てよ?
響とは仲直りできていない!まだ、仲直りの途中だった!
ちょうど、一時間目が終わる。チャイムの音が、俺を現実に引き戻した。
ディアに襲われたことや瑞希ちゃんに助けられたことが、夢だったみたい。
ほんのわずかな休み時間。
遠くの廊下はざわつき、屋上からも静けさが消えていく。
「私も、そろそろ店に戻らなければ」
瑞希ちゃんは不本意そうに自分の腕時計を見る。この世界の時計、末森さんにもらったのかな。
「私は、ここから店に戻りますね」
瑞希ちゃんは両手を空に向けている。テレポーテーションするのか、それとも、魔法で屋上を飛び立つのか、興味があるのでじっくり見届けたいが、そんな時間はなさそうだ。
保健室で寝てる響の様子も心配だから。
「瑞希ちゃん。響のこと助けてくれて、本当にありがとう!占いと調合、がんばってね」
「いいのですよ。これくらいお安い御用です。お役に立てて嬉しかったです。永音さんが困った時には、いつでも力をお貸しします。それでは」
俺は、あえて彼女に背を向けたまま手を振り、屋上を出た。
あんな懸命な顔で爽やかに好意を示されたら、いくらなんでも照れてしまう。
保健室には誰もいなかった。
ユイですら、響がここで寝ていることを知らないらしい。まあ、それも仕方ないか……。響は、身体検査以外で保健室に用の無かった健康優良児だし。
窓際のベッド。扉の開く音で目を覚ましたのか、響は眠そうな顔でのっそり上半身を起こした。
「永音……」
まだ頭がぼんやりしているのか、俺の顔を見ても反応が薄い。しかし、次第にさっきのことを思い出した響は、ベッドの上で勢いよく立ち上がると床に飛び降り、
「青い服着た男は!?俺、アイツに触られた瞬間に意識が遠のいて……!殴られたのかと思ったけど、全然痛みは無いんだ。何だったんだろう、あれは。永音も見てたよな……!?」
と、興奮気味に辺りを見回した。ディアを探してるんだな。
俺は、言魂使い問題の一件に響を巻き込んでしまった。だからこそ、響には事の一部始終を話さなければいけないのかもしれない。
もし俺が響の立場だったら、絶対そう願う。親友が何か妙なことに片足突っ込んでると知ったら、力になりたいと思うし。
それに、なにより、響はディアに襲われた瞬間のことをしっかり覚えている。
ユイやその他大勢には隠すとしても、響だけには話すべきなのかもしれない――。
でも、結局俺は、自分が言魂使いであることを響にも言わないことにした。ユイのことがあるからだ。
響は、自分の努力でユイと両想いになれたと思っている。
遠慮してるのか、俺にはあまり話してこなかったけど、片想いだと思ってた相手と両想いになれて、響は心底喜んでいるに違いない。
それは、タマいわく、俺の力の影響。ユイはもともと俺のことが好きだったと言ってくれたし、響も前からそれを察してた。
自分の能力に無自覚だった俺が、無意識のうちに言魂使いの力を発揮してしまい、それが、響とユイの気持ちを結びつけた――。 それが真実。
そんな話、響にはできない。
本当のことなど何も知ることなく、ユイと仲良く平和にやってほしいから。
ディアの話をしたら、俺の能力まで明かさなきゃならなくなる。
そうなれば、俺が最後まで語らなくても、響は気付いてしまうだろう。ユイが自分に振り向いてくれたのは、言魂使いの力が働いてたからだって。
そんなんで恋が実ったって、響は絶対に喜ばない。むしろ、失望すると思う。
片想いに悩む世の中の皆が言魂使いの能力を頼り恋愛成就を願ったとしても、響だけは俺の能力をアテにしない。
自分の努力で欲しいものを手にいれようとする。響はそういう人だから。
それだけじゃなく、俺は、俺自身の心に存在した暗い部分を響に知られたくなかった。
言魂使いの力を発動させてしまうほど心の底から響を消したいと願っただなんて、絶対、絶対、何があっても知られたくない。
響を傷つけたくないし、そうなったら、俺も傷つくから。
響のことを好きな気持ちの方が大きいのに、それは時に、一時的なマイナス感情で無にされてしまう。
言魂使いの力は、それを如実に表すものなんだ……。
「アイツは、永音の知り合いか?」
モンモンとした気分をあらわにしてディアのことを尋ねてくる響に、俺はサラッとトボけてみせた。
「さあ?何の話?夢でも見てたんじゃないの?」




