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興奮した気持ちを落ち着けるため、二、三回深呼吸をしてから、タマは言った。
「オラルメンテ認定協会所属の魔法使いは、決して協会の信頼を裏切らない、言魂使いの願いを他言しない、手助けの痕跡を残さず仕事をする、それらが絶対条件なり。彼らは、口が裂けても、仕事に関する秘密を守る」
「なんか、すごいな」
息をのむ俺の横で、瑞希ちゃんは静かにタマの話を聞いている。
「オラルメンテ認定協会は、言魂使いやその血縁の人間によって、数年前に創設された組織なりよ。昔は、言魂使いを裏切ったり陥れようとする魔法使いが多かったから、それを牽制するという目的も、協会には少なからずあった、と考えられるなり」
だからタマは、最初瑞希ちゃんに対し無防備だった俺に注意してきたんだな。
顔をしかめ、タマは語る。
「昔の暗い歴史を憂いた言魂使いがオラルメンテ認定協会を創設した――。あの組織はそう言われているなり。しかし、組織が行う業務の特性上、創設者の名前は公にされていないなりよ。
言魂使いを良く思わない連中に、創設者を暗殺されかねないからね」
「ただならない話だな」
どんだけ怪しい組織なんだ。社長の顔が分からない、いわば責任者非公開のブラックリーな通販会社を紹介されたみたいな気分だ。
「実際、オラルメンテ認定協会がその存在を確立してから、言魂使いに危害を加える魔法使いは減ったと言われているなりよ。それだけ、協会が力を示している証なり。その分、内心不満を募らせている魔法使いも多いと推測できるなり」
「そうでしょうね」
瑞希ちゃんが、表情のない顔で腕組みをする。
「オラルメンテ認定協会の望む形で、現状は保たれています。協会が強い魔法使いをメインに雇っているのも合点がいきます。強力な力を持つ魔法使いを協会に所属させれば他の魔法使いも協会に手を出しにくくなりますし、そうなればおのずと、言魂使いの安全は守られますものね」
そういえば、言魂使いにはレベルというものがあり、それが高いか低いかは生まれつき定まってるって、前にタマが言ってたな。
レベルが高い言魂使いはともかく、能力が低いと発揮できる能力は小さいって話だし、日頃から言魂使いを嫌ってる魔法使いがいるとしたら、やっぱり、そういうレベルの低い言魂使いが狙われてしまうんだろう。
なんか、嫌なものだよな。
そういうの……。
一人一人考え方は違うから、人との衝突は避けられない。それは仕方ないけど、だからって命を奪ったり奪われたり、敵と味方を分けて争うとか、そんなのは、人間として悲しい気がした……。
さっき怒られたばかりなのを忘れ、俺は再びタマに意見した。
「難しいことはよく分からないけど、協会創設のおかげで、魔法使いによる言魂使いの迫害みたいなのが無くなったのは、素直に喜んでいいと思うけどな」
「永音氏らしい意見なりね。ミーも、その気持ちは分からないでもないなりよ」
お。今回は怒られなかった。
ホッとしたのも束の間、タマは難しい顔になった。
「問題はそこじゃないなり。完全に部外者のディアに言魂使いの情報を流している裏切り者が協会にいることが、大問題なり!!魔術師に仕事を依頼しても、さっきのディアみたいに未達成で逃げられたら元も子もないなりよ。このことが広く知れ渡れば、協会の存在意義を疑われるかもしれないなりね」
「それもそうなのですが、そのおかげで、今回、響さんは無事でした」
しかし、と、瑞希ちゃんが続ける。
「協会内部に裏切り者がいることは、私も気になります。ディアさんに仕事を与えている人物の正体さえ分かれば、この問題は解決するかもしれませんね。
私も、魔法使いの端くれとして、魔法使いによる悪行は自分のことのように感じ、許せませんから」
冷静な口調ながらも瑞希ちゃんの表情はかたく、見えない敵に軽蔑のまなざしを向けているようにも感じた。
裏切り者のいる組織なんて不穏だし、業務遂行も何もあったもんじゃないよな。




