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「永音!来てくれたんだな!待ってたぞ!」
深刻な空気は一変。響の穏やかな声が、三ヶ月に渡る俺の不登校記録をなかったものにした。
「来てくれるなんて思わなかった。嬉しいよ、永音!」
響は俺の手を両手で握り笑った。響ファンの女子達が見たら万年ハイテンションになってしまうだろう、その笑い方は。いっそアイドルとかになったらいいのに。罪な男だ。
俺は視線を泳がせ、
「昇降口で、毎日俺のこと待っててくれたの?ごめんな、迷惑かけて」
「迷惑なんて思ったことない。寂しくはあったけど、な」
やっとの思いで目を合わせると、響の目は潤んでいた。
一時間目開始を告げるチャイムが鳴ったけど、俺達は向かい合ったままその場を動かなかった。
「この前、永音んちに行った時、将来がどうとか受験に響くとか、色んなこと偉そうに言ったけど、そんなことは二の次だった」
響は言った。
「ただ単に、永音と一緒に中学生活送りたかっただけ。将来のことなんて、俺だって具体的に考えてるわけじゃないのに。変にそれらしい理由つけて、永音を外に引っぱり出そうとした」
「あれは、けっこう効いたな。ズシンときたし」
俺は、まず謝ることにした。
「『居なくなればいい』だなんて、ひどいこと言ってごめんな。正論言われて、腹が立ったんだ。響みたいな完璧なヤツに俺の気持ちが分かるはずないってさ。だからって、あれは言い過ぎだった。響のこと、すごく傷つけたと思う。本当にごめんな」
長い間抱えてたものがスッとした。
謝るってかなり勇気がいるけど、『ごめんね』って『ありがとう』と同じくらい気持ちの良い言葉なんだな。
「永音。また、前みたいに仲良くしたい。俺は、お前がいなくなったらつらいから」
昔のユイが聞いたらBLどうのこうのと騒ぎかねない、ストレートな想いをぶつけてくる響。俺はこっぱずかしくなり、『よく、そういうこと恥ずかしげもなく言えるな』とツッコもうとした。まさにその瞬間、第三者の声がここ――渡り廊下に響いた。
「これだから、思春期真っ只中の言魂使いは困る。振り回されるこっちの身にもなってほしい。ころころ意見を変え、すぐに周囲と同調してしまう。自分の信念というものがまるで無い」
敵意剥き出しの声音。
(俺達よりは年上だろうが)まだ未成年らしき青装束の若い男が、宙に浮いた格好で両腕を組み、自身の黒い髪を風になびかせている。男性ファッション誌の表紙モデルをしていそうなイケメンだけど、普通の人間でないのはたしかだ。
いつからそこにいたんだ?気配なんて全く感じなかった。
もしかして瑞希ちゃんと同じ、異世界から来た魔法使いだったりするのか?




