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呆れによるため息をギリギリのところで抑え、俺は言った。
「響と俺を見ては、毎回毎回BL希望発言されてたな。そのたび反応に困ったし大迷惑だった。否定しない。でも、それで怒ったりはしてないし、ユイの趣味は理解してるつもりだ。俺と響の間に起きた問題に、ユイは、何の関係もない」
「じゃあ、何で、二人は仲悪くなったの?あんなに仲良くしてたのに……」
ユイは不安げに俺を見つめる。聞くのがつらくない答えを期待してるみたいな目で。だからと言って、俺は気を遣う気などない。今まで散々我慢したんだ。最初はそれが最善のやり方だと思ってたからそうしたんだけど、結果、状況はどんどん悪くなっていった。だったら、相手を傷つけない程度に、言いたいことは言うべきだと、今、改めて思った。
「うらやましかったのかもな、響のことが」
「うらやましい?」
「うん。人望あるし、頭もいいし、性格もいいだろ、響は。そんなヤツ他に知らないし、ユイの心まで持ってっちゃったからな、アイツは……」
わざと、ユイから目をそらす。俺は青空だけを視界に入れた。
「俺は、響に敵わないや」
「そんなことない。永音は永音で、良いところがあるよ。響の存在に負けてなかった。永音はいつも言葉を大事にしてた。人を傷つけるようなことは言わなかったもん。そういう永音だから、私は……」
「ありがとな……」
それだけフォローしてくれれば充分だ。
「今は響のことが好きなんだろ?がんばれよ。応援する」
俺じゃなく、最終的には響を選んだ。それが、ユイの出した結論なんだ。
「ここだけの話なんだけどさ……!」
ユイが唇を噛みしめる。
「不思議だし、自分でも自分のことが信じられなくなる話なんだけど。永音のことを好きな気持ちは何があっても変わらないって思ってたのに、自信あったのに、響に告白される直前になって急に、何の前触れもなく、自分が自分じゃなくなってく感じになって……」
それは、俺が響を応援したから起きた変化なのだと、すぐに理解できた。ユイと響がお似合いだとか、二人に上手くいってほしいと、俺が口にしたから。
「永音を好きな気持ちが、コーヒーに溶かした生クリームみたいに、ゆっくり消えていったの。自分でも、かなりショックな変化だったんだ。だから、響の告白にも、すぐに返事できなかった」
響に告白された後、一ヶ月も返事を保留にしてたのは、そういうことだったんだな――。
ショック、か。毎日楽しそうにBL談義をしてたユイとは思えない、神妙な顔をしている。俺は今、自分が言魂使いであることを深く実感し、複雑な想いにかられていた。でも、ユイにはそれを話さない。タマが、こうしてただのストラップのフリをしているということは、俺も、自分が何者であるのかを他者に知られてはならないってことなんだろうから。
気心知れた長年の友達にこっちの事情を話さないという選択は心苦しくもあったけど、俺はなんとか“ただの男子中学生”の口調で、ユイにこう返した。
「心変わりなんて珍しいことじゃないし、これからは難しく考えずに、響と楽しくやればいい。俺にはユイの気持ち全部受け止めることはできないけど、響がついてる。ユイはひとりじゃない。もう、何も気にするな」
学校を休んだおかげもあり、また、こうしてユイと話してみて、やっと気持ちの整理がついた。
「響とも、ちゃんと話してみる。俺、逃げてばかりだったしな」
仲直りできるかどうかは分からないけど、響と話さなきゃ、学校まで来た意味がない。それに、それが、言魂使いの役割だから。
「響なら、教室にいるはずだよ!」
屋上を出ようとする俺の耳に、ユイの声が届く。さっきより明るい、彼女らしい声音。なんだかこっちまでホッとした。
「ごめんね、永音……。私、鈍感もいいとこだったね」
今さら気付いたのか。口にはせず、俺は片頬で笑ってみせた。
「響なら、きっと大丈夫!ありがとう、永音……!」
振り向かず片手を上げることで、ユイに前向きな返事をした。




