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ユイの方を見ないよう、前を向いたまま俺は訊いた。
「どうして……?響と一緒じゃないの?」
「うん。私一人で来たよ」
「…………」
「響に聞いた。学校サボって、街を出歩いてたんだって?」
マミさんの握手会に行ったことを深く後悔したのはこの時だけだった。
ユイは自分の通学カバンで俺の背中を軽く殴り、眉をつり上げる。
「響も、私も、ずっと永音が学校来るの待ってたんだよ!?
私は毎朝、ここで待ってた。響とケンカしたんだよね?隠してても分かるんだから」
「………………」
「今日、響も永音んちの前で永音を待ちたいって言ってたけど、私はそれを断った。そろそろ、なにか話してくれてもいいんじゃないの?」
さすがに腹を立てているのか、ユイの口調は終始トゲトゲしている。
「……そうだよな。俺のワガママでユイのことも振り回しちゃったよな。ごめん……」
響との問題を何とかする前に、まずはユイとちゃんと話さなきゃな。
「話してくれる?」
「うん」
通学路。まあまあ長いはずの道のりは、あっという間に過ぎてしまった。
今さらユイに俺の気持ちを伝える気はないから、恋愛感情抜きで不登校になった理由を説明しなくちゃならない。必要な経緯とはいえ、かなりハードな難問を突き付けられた。
こうして足を学校に向かわせるだけでかなりの精神力を使ってしまっている俺に、ユイというデカい壁を越えることができるのだろうか。初期装備でラスボスに出くわした冒険者の心境である。
毎日ウチの前で待ち伏せしていた彼女に、無視という選択肢は通用しないことも分かっている。
考えを練っているうちに学校に着いてしまった。
校舎に近付くにつれ強くなる同学年達からの視線も気になる。『あいつ、引きこもりになってたヤツだろ。何で、こんな中途半端な時期にまた来たの?』とでも言いたげな、興味本意の目線。考えすぎか?
下駄箱で上履きに履き替えると、足裏がひんやりした。夏だというのに。それだけ長い間、俺は学校から逃げていたんだってことを知った。
「屋上行こ?」
ユイが言った。
「あそこなら、ゆっくり話せるし。まだ時間あるから」
「ああ……」
ユイも気になっていたんだろう。同級生達の視線や、俺達の会話に聞き耳を立ててそうな周囲の空気が。
ユイについていく形で、俺は屋上へ続く薄暗い階段をのぼった。
夏だ。そう感じずにはいられない真っ青な空が広がっている。屋上のフェンスに背中からもたれ、ユイは伏し目でつぶやいた。
「私、ずっと永音のことが好きだったんだ」
「……何の冗談?」
久しぶりの登校を果たした男子中学生には刺激が強すぎる一言だった。
「そう言われても仕方ないかなぁ。でも、冗談とかじゃない。本当だよ」
ユイははにかむ。




