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翌日の朝9時。瑞希ちゃんに会うため、俺は『言魂』に向かった。
瑞希ちゃんとは友達になれたのだから、毎日通って彼女の調合を見学したり、店の手伝いなどができたらいいなと思ってたんだけど、俺には他にやらなきゃならないことがあるから、遊んでるわけにはいかない。無意識のうちに使ってしまった言魂の能力を無効化しなくちゃ。これは、最優先任務なんだ。
学校に行かなきゃ、響には会えない。ユイとも、一方的に距離を置いたまま放置してしまっている。
今、自分がするべきことを瑞希ちゃんに伝えるべく、暑い日差しの元、店の扉をノックした。
すでにカレンダーは七月。午前中とはいえ、一時間近く歩いた身体には汗がにじんでいた。
「瑞希ちゃん、ちょっといいかな?」
「永音さん?待ってて下さい。今、開けますね!」
取り込み中だったのか、瑞希ちゃんが扉を開けてくれたのは、俺がノックをしてから2~3分してからだった。
クーラーがついていて、店内は快適。シャワーを浴びたいくらい外は暑かったから、涼しくて気持ち良い。
奥のカウンターには、膨らませた風船や焦げたパンケーキ、その他薬草チックな物がゴチャッと置かれている。魔法薬調合の練習をしてたのかな?
「忙しかった?ごめんね。出直すよ」
謝り踵を返そうとすると、
「いいのです、どうかお座り下さいっ」
瑞希ちゃんは俺の背中を両手で押し、昨日と同じ席に座らせた。
「調合、今日はいい線までいっていたのですが、最後の最後でミスをしてしまって……。仕上げに焙る作業があるのですが、その時、標準より火加減が強くなっていたらしくて。
今日は暑かったですよね?冷たい物を用意します」
「ありがとう」
すぐに、レモンスカッシュがテーブルに運ばれてきた。瑞希ちゃんと俺、二人分のグラス。注がれた黄色く透き通った液体に勢いよく泡が立っている。見ているだけで、体感温度が一度下がった気がした。
向かいのイスに彼女が座ったのを確認する。一口だけレモンスカッシュをいただき、俺は話を切り出した。
「嫌なことがあって、ずっと学校サボってたんだ。今年の四月からだから、もう、三ヶ月、いや、四ヶ月目に入るかな。友達絡みで色々うまくいかなくなって、一方的に逃げてた……」
「そうだったのですか」
瑞希ちゃんの落ち着いた反応に、救われる。俺を占った時、彼女はこっちのことを見透かしたはずなのに。普通に聞いてくれて、本当にありがたかった。
「瑞希ちゃんが友達になってくれたこと、すごく嬉しかったんだ。このまま、学校なんか行かずにここに通うことも考えたんだけど……」
頑張って魔法の修行をしてる瑞希ちゃんを見て、俺も頑張りたいと思ったんだ。
「学校へ行くのですね、永音さん」
「うん」
一旦学校に行き始めたら、もう、こうやってこの店でまったりすることもできなくなるだろう。
「ごめんね……。せっかく友達になれたのに」
ガッカリされると思ってたのに、瑞希ちゃんから返ってきた言葉は穏やかな日だまりのようだった。
「謝ることなどありませんよ。永音さんの気持ちは充分伝わってきました。私は、永音さんのしたいことを応援します。上手くいくといいですね」
「瑞希ちゃん……」




