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「そう、だな……」
「うん。独りで感じる想いとは違う感情。人は、相手あってこそ喜怒哀楽を感じるものなりよ」
タマの言う通りだ。
両親が離婚して気持ちの整理がつかなかった時、母さんのタフで楽天的な言動のおかげで落ち込まずに済んだ。
母さんが結石で寝込んだ時、響がいたから暗い気持ちにならずに済んだ。
上手く生きられなくてどうしたらいいのか分からずにいた俺に、タマは道を示してくれた。
瑞希ちゃんが友達になってくれた。
「色々納得できないこともあるけど、みんなに励まされてきたのも本当なんだよな……」
今まで気付かなかった、人の優しさ。
「そう、その心が大切なり」
後押しするみたいに、タマはスマホごと俺の肩に飛び乗る。
「永音氏。君の身に起きた問題は今も解決してないし、これからも解決しないかもしれない。でも、それは決して悪いことじゃないなり。君のそばには、常に誰かがいた……。“そこにいる”それだけで救われるものなり」
「うん、そうだな」
立派な解決策やアドバイスがなくても、黙ってそばにいてくれるだけで充分だった。みんなが、自分を――ありのままの俺を受け入れてくれているようで。
「君は、感謝する心を持ってる。だから、絶対なれるなりよ 」
「うん、なるよ!大切な人を支えることができる言魂使いに……!」
俺を支え、力になってくれた人のために、俺は変わりたい。次は、俺が周りの人達を支えたい。
変わりたい。変わらなきゃ。変わるんだ――!
ダメなとこばかりの俺だけど、自分の悪い部分ばかり見て卑屈になるクセは、できることなら直したい。自分を好きになりたい。
「ところで」
俺は、軽く気になっていたことをタマに訊いてみた。
「いつの間にか、俺の呼び方が変わってたな。最初は『望月氏』だったのに、今は『永音氏』になってる」
「心理作戦なりよ。上の名前より、下の名前で呼ばれた方が、永音氏のミーに対する親しみが増す。有名な心理学の話を試してみたなりよ」
「試したって。俺は実験対象にされてたのか。別に、そんなことしなくても、タマとは自然と仲良くなれると思うけどな。なんてったって、俺達は不思議な絆でつながった特別な関係なんだろ?」
「もちろんなり。言魂使いと言魂使いを導く者の出会いは特別そして奇跡。何よりも尊い関係なりよ」
「だったら別に、心理学とか意識しなくても……」
「雰囲気作りなりよ。ミーは瑞希氏のように甘く優しい物言いはできないから、別のところで君との心理的距離を縮めておく必要があるなり。最悪、あの魔法使いが永音氏を悪事に引き込もうとした場合、永音氏とミーの心のつながりが弱いとこっちは不利なりから」
「そんな、瑞希ちゃんに限ってそれはないよ」
「たとえ話なりよ。ミーは、魔法薬なんて使わずとも、言魂使いを導ける。そう証明したかったのかもしれないなり。くだらないプライドなりね」
タマは自嘲気味に笑う。ちょっと悲しそうに見えた。
「タマにも、そんな感情があるの?意外だな。もっと冷静なのかと思ってたよ」
「想像以上の逸材を前に、ミーも熱をあげずにはいられなかった。なんてね、本気にしなくていいなり。それより君は、今後のことを大切に考えるなりよ」
タマはもう、いつもの強気さを取り戻していた。




