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「また、いつでも遊びに来て下さいね。楽しみにお待ちしています」
夕方まで店で過ごした俺は、瑞希ちゃんに見送られながら帰路についた。
久しぶりに、心が軽かった。
ユイや響と距離を置いてから、目に映る現実の景色何もかもが悲しかったのに、夕暮れの帰り道、オレジン色のアスファルトや茜色の空がとても美しく思えた。
ギャルゲーやアニメも面白いし気分転換になるけど、それが一気に色あせてしまうくらい、瑞希ちゃんと過ごした時間は楽しかった。突然眠気がきて眠っちゃったり……と、不思議なこともあったけど。
母さんが起きてくる前に帰宅。急ぎ足で自分の部屋に戻ると、
「はぁ。睡眠誘導式精神安定魔法薬を盛られて寝てしまった上に、初対面の女の子にデレデレして。これじゃあ先が思いやられるなり」
何時間かぶりに、タマがしゃべった。
「睡眠魔法?」
長時間黙っている間に募った不満を、タマはためらいなく俺にぶつけてくる。
「魔女の差し出す食べ物をホイホイと口にするなんて、永音氏は命知らずもいいとこなり。君が眠ってしまったのは、出されたお茶に混入された魔法薬のせいなりよ?効き目から察するに、おそらく、ケーキにも同じ魔法薬が入っていたと思うなり」
「瑞希ちゃんが出してくれたモンブランケーキと紅茶を口にしたから、あんなに眠くなったのか?タイミングを考えたらあり得るかもしれないけど、そんな、悪いこと考える子に見えなかったよ」
少なくとも、毒舌なタマより優しかった。
ストラップは呆れた顔でため息をつく。
「今回は相手に悪意がなかったから死なずに済んだなり。彼女は、永音氏と仲良くなりたいがために、リラクゼーション効果のある魔法薬をケーキに振りかけていた。見た目は粉砂糖みたいなものだから、永音氏が気付かないのも無理はないなりが……」
「そっか。瑞希ちゃん、俺に気遣ってそんなことしてくれたんだな。最初、緊張しすぎて、彼女と何を話したらいいかとか、どう振る舞えばいいのかとか、全然分かんなかったし」
「永音氏は人が良すぎるなり。いつか、敵に毒薬を飲まされないよう注意した方がいいなり。初対面の相手には常に警戒心を持つ。それくらいでちょうどいいなり」
「あのなぁ。俺だってもう十五なんだ。ちょっと話せば、相手がイイヤツか悪いヤツかーくらい、判断できるって」
「それは当然のことなりよ。むしろ、日々養うべき重要なスキルなり。言魂使いなんだから」
「ちぇっ」
オラルメンテオラルメンテって、二言目にはそればっかり。まったく、タマは。
「でも、感謝してる。ありがとな。タマが勧めてくれなかったら、瑞希ちゃんと友達になることもできなかったし、今もウジウジしてたと思うから。せっかくだし、明日もあの店に行ってみるよ」




