◆
引きこもりになる前、俺はいたって平凡な学校生活を送っていた。それなりにクラスに溶け込んでいたし、仲の良い親友もいた。好きな人だって、いた……。
今年の4月。
中学三年になった俺は、親友の桜井響と同じクラスになれたことで、進級早々テンション高く喜んでいた。
響は照れくさそうに、
「俺も嬉しい。高校も、一緒のとこ行こうな」
「無理だって。響と俺じゃあ、脳スペックが違いすぎるし!」
「永音は、そこそこ出来る平均タイプだもんなぁ。今から俺が家庭教師に立候補しようか?」
「んー。ちょっと悔しいけど、そうしてもらった方がいいかもなぁ」
俺達の仲の良さは、学校中が知っていたと思う。
学力レベル平均そこそこ、いつも騒がしく馬鹿な俺と、何でもソツなくこなす器用なイケメン響。いろんな意味で、俺達の組み合わせは目立っていたらしい。人目を引くのは、完全に響なんだけどさ。
小学校入学したあたりから、響とはよく一緒にいた。
好きな食べ物もだいたい同じだったし、面白いと思うゲームの種類もよく似ていた。
顔や性格が違っても、俺達はよく、周りから『似てる』と言われた。俺達二人の雰囲気は近いものがあるんだろう、と、勝手に解釈した。
体育祭やマラソン大会の順位にも、響と俺の名前は連なった。一位はだいたい響。二位は俺。
よく、クラスの男子達から「響と一緒に行動してるとヘコまね?」と訊かれたけど、俺は「そんなことないよ」と返した。本心だった。俺は俺、響は響だからだ。
たしかに、勝負事の場合、僅差で負けると悔しいし、「クッソ、次は勝つ!」と叫んだりもした。マラソンでも、障害物競争でも。
それでも、響は大事な友達だ。
お互いにお互いをいちばんに考えられる、そんな関係。
小学四年の時、俺の親は離婚した。母さんに引き取られることになったので、俺の苗字は善積から望月に変わった。
自分でも変な感じがしたから、クラスの皆はなおさらそうだったんだと思う。
当時、俺の苗字が変わったと説明する担任に、皆は言った。
「永音君の苗字は、なんで変わったんですかー?」
子供独特の素直な質問も、あの頃の俺にはけっこうキツいものがあった。そこに悪意はないと、知っていても。
呼ばれ慣れた苗字から、母親の姓に変わる。違和感とはまた違うし、そんな一言では足りない何か。これは、経験した人にしか分からない感覚なのかもしれない。
ざわつく皆を前に、担任はオロオロするばかりだ。無理もない。
でも、心の隅で、先生ナイスフォローしてくれないかな~って、ちょっとだけ期待していた俺。
当分、苗字のことで皆から質問攻めされるのかな。
憂鬱気分を吹き飛ばしてくれたのは、響の力強い言葉だった。
「永音は永音だろ!皆、騒ぎすぎ!今日からちょっとリニューアルするだけだよ。な?永音」
「そうそう!リニューアルしただけだからっ。これからも、望月永音をよろしく~」
響が居てくれたから、俺も冗談ぽくそんな返事ができた。もしもひとりだったら、どんどん暗い気分になってた。




