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「私には、こちらの世界で、親しくお話できる友人がいないのです」
日差しの強い窓際に立ち、瑞希さんは言った。逆光のせいで、彼女の表情までは分からない。
「私は、地球とは違う、はるか遠くの世界からやってきました。永音さんから見ると、私の存在や魔法薬の調合は人間離れしたものに映るかもしれませんが、私の生まれた惑星では、ほとんどの人が知る日常的なものなのです。
ですが、地球では私のような者は異端。ゆえに、何の力も持たない人間としてここで働かせてもらっています。永音さんを占う際には特別な力を使いましたが、あれは、他のお客様には見せない術式だったのです」
「そっか……。そうだったんだ……」
それで、あの時水晶が光ったんだな。普通のお客さんにあんなものは見せられないと考えた瑞希さんの気持ちも分かる。非日常的現象に片足を突っ込みつつある俺が相手だったからこそ、彼女は隠すことなく自分の能力を使えたんだ。
そういう事情だと、こっちの世界で人と仲良くするのも制限しなきゃいけないんだろうな……。うっかり魔法使いであることがバレたら、どうなるか分からないし。
「瑞希さんは、本当に異世界の人なんだね」
「はい。魔法使いとして生まれ、家族の勧めで魔法学校にも通っていました。ですが、全然上達しなくて……。調合は教科書を見れば簡単に出来ますが、オリジナルの魔法薬を作れたことはありませんし、初歩的な攻撃魔法すら自由に操れなくて、補習ばかり受けていました……」
窓の向こう側に漂う六月下旬の蒸した空気は、瑞希さんの憂鬱な過去を映し出しているみたいだった。
「私の住んでいた世界は、魔法使いにとって住みやすく学びやすい土地でした。私の通っていた魔法学校はもちろん、学校に通えない子供のための無料教育施設もありました。国が管理する学習施設や魔法実験場も多数完備されていましたし、学校の学生課にはアルバイト情報も豊富に流れていたので、調合に必要な道具や材料を買うお金も楽に入手できました。それでも私の中には、攻撃魔法に対する悪い先入観があったため、いくら練習しても上達はしませんでした。ここにいては、私はどんどんダメになってしまう。与えられるばかりの環境にいては、現状に甘え続け、一生劣等生のまま……。
危機感を覚え、ここに来ました。あの世界でなければ……。魔法使いさえ居ない場所であれば、行き先はどこでも良い。そんな思いで故郷を旅立ちました。最初は……」




