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ところで、と、瑞希さんは言った。
「『瑞希』と、呼び捨てにして下さってかまいませんよ、永音さん」
「えっ、でも……」
いくら彼女が年下っぽいとはいえ、友達でも何でもない知り合ったばかりの女の子を呼び捨てにするなんて、気が引ける。そんなぶしつけな真似が許されるのは、ギャルゲーの中だけだ。
ためらう俺に向け、瑞希さんはさらに言葉を継ぐ。
「今後、こちらに通って下さるのですよね。でしたら、気楽に呼んでいただいた方が、親しみやすくて、私は嬉しいです」
「なんでそれを?」
外出慣れを目指してここへ来たこと、彼女に話したっけ?
「水晶が教えてくれました。永音さんの生活のことや、生い立ちなども」
「なっ、マジか!」
素っ裸な反応をしてしまった。
知られて困るようなことはないけど、プライバシーの保護も何もないな。こんな可愛いコに俺の地味ライフが筒抜けだなんて、かなり恥ずかしいゾ。
「占うのは俺の性格だけじゃなかった?」
「はい、そうです」
俺の羞恥心を知ってか知らずか、瑞希さんは柔らかい声音で平然と告げる。
「人の性格は、生活環境や対人関係、生い立ちにより形成されますから、そういった情報から総合的にじっくり永音さんの性格を判断いたしました」
あああ……。言ってることは何となく分かるけど、スケールがでかすぎてさすがに面食らってしまう。瑞希さんの占い能力は、国家の情報管理者もビックリなハッキングぶりを発揮している。政治家の黒い裏側とかも、頼んだらアッサリ暴いてくれそうだ。
「話を戻しますが、私のこと、名前で呼んでいただけますか?」
「いや、その……」
これはこれで厳しい話題だ。
俺が女子を呼び捨てにする場面なんて、そうそう無い。アニメやゲームのお気にキャラすら、ちゃん付け・さん付けするヘタレなんだぞ。
響みたいにかっこよければ女子を気軽に呼び捨てすることも許されるんだろうが、顔面スペック中の中と言われたことのある俺にはそんな冒険ムリ!
学校に行ってた時ですら、俺は女子の名前を『苗字+さん』で呼んでいた。ユイくらいじゃないか?気楽に名を呼べた女子は。
「そんなに難しく考えることはありませんよ」
瑞希さんは向かいの席を立ち、俺のそばに立った。彼女の顔を、座ったまま見上げる体勢になる。
「よろしければ、私とお友達になっていただけませんか?永音さんが嫌でなければ……」
「そんな、嫌じゃないよっ。でも、だからって呼び捨てにする必要はっ」
女子との会話に免疫がない俺を、許してほしい。対人スキルは、鍛えないでいると日々劣っていくものなんだと、今、痛感した。
もう、パニック状態。冷静に振る舞うのが大変だ。




