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そんな危ない薬を、いつ誰がやって来るか分からない店内で調合するなんて、瑞希さんもデンジャラスな人だなぁ……。でも、文句を言う気にはなれず、不思議と和んでしまう。瑞希さんは一生懸命努力してるんだろうな。魔法薬の調合を成功させるために。
「普段はめったにお客様が来ないので、油断してしまいました」
照れたように、瑞希さんはうつむく。なんだか可愛いな。ちょっとドジ属性のある妹みたいだ。
末森さんといい、タマといい、瑞希さんまでもが変わったプロフィールの持ち主だと分かった。
BL好きな女友達ならいたけど、そっちの方がまだリアリティーあるよな。『腐女子』という言葉が一般化してしまうくらいだし。
俺ももう、人のこととやかく言えないか。タマいわく『言魂使い』だし。
「末森さんから永音さんのお話を聞いて、一度お会い出来たらと思っていました。こうしてお話しできて、とても嬉しいです」
「はい……」
……んん……。なんか、急に眠たくなってきた。
瑞希さんがここに来た経緯にも興味があるし、彼女が魔法使いだっていう証拠をもっと見てみたい。緊張しながらも色々話したかったのに、俺のまぶたはどんより重くなってきた。
「永音さん――」
瑞希さんの声が遠くなる――。もしかして、イチゴシャンプーの匂いの煙を吸ったせい?瑞希さんの心配通り、悪い作用が出ちゃったのか?
俺は、テーブルに突っ伏す形で眠りこけてしまった。
深い眠りに引き込まれた俺の耳に、すぐそばで行われる二者の会話など入るわけがなかった。
「望月氏に何をしたなりか!?」
「タマさん……。そちらのストラップに宿ることにしたのですね。大丈夫です。永音さんはすぐに目を覚まします。ひどく緊張されていたので、リラックス効果の高い薬を少々、紅茶に混ぜさせていただきました」
けっこう長い間眠っていた気がするのに、店内の時計を見ると一時間も経っていなかった。
ゴツゴツしたテーブルの感触を頬に感じ、俺はハッと面を上げる。
「寝ちゃってたのか……」
寝不足とかじゃないのにな。
目をこすりながらテーブルの上を見ると、俺が口をつけたモンブランの皿やティーカップは綺麗に片付けられている。元から置いてある水晶玉の透明さ加減が、やけに美しかった。
「気持ち良さそうに眠ってみえましたね」
奥のカウンターから、瑞希さんが出てきた。
「すみませんっ、話の途中で勝手に寝ちゃって」
「いいえ、気にしないで下さい。おくつろぎ頂けて、こちらとしてはむしろ嬉しいくらいですよ。目覚ましに、何かお持ちいたしますね」
「いえ、もういいです。さっきもケーキとかごちそうになったばかりなので」
俺は、買い物客ではない。引きこもりを引退するべく、外出慣れするためにここへ来ただけなんだ。
昨日は、成り行き上タマ(ストラップ)を買ったけど、下手したら今日は何も買わずに店を出るかもしれない。それなのに、色々気を遣わせるのはかなり申し訳ない。
そういえば、いつの間にか、全身に絡み付くような緊張感が抜けている。さっきに比べ、気楽というか。瑞希さんと普通に接することができている。寝起きだから気が緩んでるのか?
いらないと断ったのにも関わらず、
「喉、渇きませんか?空調も付いていますから」
瑞希さんは温かいミルクティーを淹れてくれた。
「ありがとうございます。いただきます」
自分で思っていた以上に、体は渇いていた。ひとたびカップに口をつけると、液体の口触りに爽快感を覚える。喉を通過したミルクティーが全身にしみわたるようだ。
俺の向かいに座ると、瑞希さんは水晶玉に片手をかざした。さすが本業の占い師だ。様になっている。
「永音さん。今、何か悩んでみえますか?」
「そっ、そう見えるかな?」
「ええ。来店時からずっと難しい顔をしてみえましたし、寝言にならないうめき声を発していました。ほとんどの時間気持ち良さそうに眠ってみえましたが、一時、ずいぶん苦しそうでした」
「そ、そっか……」
寝ていたとはいえ、俺はどんな状態だったんだ!?人前だとすっごい気になる。どうか、変なこと口走ってませんようにっ。
「あの、もしよろしければ、永音さんのことを占わさせていただけないでしょうか?」




