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父さんはかなり不器用な男で、よく、不用意な発言で母さんを傷つけていた。
おっとりしてて楽天家な母さん。一方、父さんは完璧主義で神経質な人だった。二人は、意見が合わずによくケンカしてたけど、仲良く買い物に行くことも珍しくなかった。
だいたい、離婚するつもりで結婚する人なんていないだろうし。
二人の相性が良いのか悪いのか、なんて、子供の俺にもよく分からなかった。母さんと二人きりの生活に慣れた今でも、どうして離婚したのか、はっきりしたことは分からないまま。
母さんに手を引かれながら父さんと過ごした家を出た時も、何が起きたのか理解できなかった。離婚話は、俺の知らないところで進められていたんだ――。
人は、納得できないことに直面すると、そういう事態に至った理由を求めたがる生き物だと思う。俺が、そうだった。
今より幼い頭で、両親の離婚理由を必死に考えた。
一見和やかに見えた家族の日常。必要な物を買い出しに行ったり、父さんが運転する車で遊びに行ったり、家の掃除をしたり。
そんな思い出の中、強烈に残っていたのは、父さんが母さんを責める言葉だった。
「お前がしっかりしてないから、こんなことになったんだ!」
「そんなに怒ることないじゃない!あなたは悪く考え過ぎなのよ」
こんなやり取りを、何回耳にしたか分からない。
父さんとの言い合いが終わると、母さんは決まって俺にこう言った。
「言葉は、癒しにもなるし凶器にもなる。永音、友達は大切にしなさいね」
涙ぐみつつ笑顔の母さんは、そんなセリフを放ちながら何を考えていたんだろう。父さんみたいにはなるなという、遠回しなアドバイスだったのだろうか。
――それらの体験が影響しているのか、俺は、むやみやたらに人を罵倒するのは人として間違っているのだと思うようになった。
言葉には気を付けないといけない。
油断して禁句を言おうものなら、一瞬のうちに何もかも失ってしまう。
分かってはいた。そのはずなのに、俺は、唯一の親友を傷つけてしまった。いちばん、大切にしなくてはいけない相手を……。




