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「私、響と永音以外の人にBLの話するのやめるよ」
「えっ!?どうしたんだよ、急に!」
響と俺は、同時に言う。
「BL、嫌いになったのか!?」
「そんなことない。BL無いと生きていけないくらい大好きだよ。今でも、理想のイケメン俳優同士を頭の中で思いのままにくっつけてるとテンション上がるし、近い将来、日本の法律が変わって同性同士でも結婚可能になって、響と永音が永遠の愛を誓ってくれたらいいのにって切望してるよ」
いろいろツッコミたい気持ちをグッと我慢し、俺達はユイの次の言葉を待つ。
「でも、それはあくまで私の趣味であって、他のコは違う。だいたいの女子は、オシャレすることやカッコいい男子の話題に夢中だもん。女としては、そういうのに興味持つのが普通なんだよね。私も、もうすぐ中学生になるから、そういう風にならなきゃダメかなって……」
ユイがそんなことを考えているなんて……。意外に思うのはもちろん、なんだか釈然としない。
響もそう思ったんだろう、納得いかないように眉をひそめた。
「ユイはそれでいいのか?今まで周りの反応なんか気にせず好きにやってきたのに、今さら変われるのか?そんなの全然らしくないし、好きなこと我慢して生活するなんてつまんないだろ、お前だって……!一体、何があったんだよ……」
ユイに対しては大方そっけない響が珍しく熱のこもった事を言うものだから、さすがのユイも身をこわばらせてしまう。しかし、しばらく考え込んだ後、弱々しい瞳ながらもハッキリした口調で彼女はこう告げた。
「隠してたBL関係の本、とうとうお母さんに見つかっちゃってさ……。色々言われたよ……。お母さんの私物チェック厳しいから、しょっちゅう隠す場所変えてたのにね」
それきり、ユイはうつむく。
そうだった。ユイの母親は、そういうのに理解がないタイプだったんだ――。
1年くらい前。ユイがお気に入りだったBLマンガを、偶然彼女の母親が見つけてしまうという事件が起きた。その上、ユイは母親から「なにこれ……。あなたこんな物が好きなの?」と、不愉快そうな眼差しを向けられたらしい。
「理解しろなんて言わないけど、お母さんにまであんな反応されて、けっこうグサッときたよ……。ショックだったなぁ」
以来ユイは、家族にはBL好きを隠すと固く決めていた。
「こんな物を買わせるためにお小遣いをあげてるわけじゃないのに」
母親にそう言われ、ユイは反発できなかった(その反動もあって、ユイは学校内でBL好きを公言していたのかもしれない。自分の本性を抑えるのには限界があるもんな……)。
そうやって懸命に隠していたのに、中学入学を控えた春休み、その趣味(BL)は、あっさり過ぎるくらいあっさり母親にバレてしまった。
ユイの母親は、ユイがまだBL好きをやめていないと知って、こう言ったそうだ。
「あなたは私に似てけっこうカワイイんだから、そんな変な趣味は捨てて、かっこいい男の子と恋愛のひとつやふたつしてみなさいよ。BLに興味を持ったって何の足しにもならないし、そんなのにのめりこんでいたら最終的に恋愛不足の極みに陥るだけよ?
女の将来は付き合う男にかかってるって言っても過言じゃないんだから、今のうちから男を見る目を養いなさい」
なんつー母親だ。とは、さすがに口が裂けても言えなかったけど、ユイ母の言葉は妙に真理を突いていたものだから、俺の胸に音を立てて深く突き刺さった。音で表現すると、『ざっくり』という感じで。
離婚した母さんを見ていたから、なおさら。
父さんみたいに口の悪い人じゃなく、もっと相手の心情や自分の言葉に配慮できる男性と出会っていたら、母さんの人生は違っていたんじゃないかと思う。そうなれば、俺はこうして存在しないんだけどさ。
そんな、考えてもどうしようもないことをナチュラルに考えてしまう年頃なんだよ、十三歳は。
ユイも、そうだったんだろう。
キッカケは母親の言葉だったのかもしれないけど、今までは考えもしないようなことを考えるようになり、これからは違った生活を送ろうと決めたんだ――。




