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小学校入学と同時に、俺は響と仲良くなった。俺達は、他の男子達としゃべるかたわら、時々同じクラスの佐々木ユイという女子とも話していた。
ユイに対する第一印象は、『絵に描いたような優等生』。彼女はとても面倒見がよく、皆が嫌がることでも文句を言わず引き受けていたし、顔も可愛い。適度に明るい、サバサバした女子児童。一見、誰にでも好かれそうな要素をたくさん兼ね備えている。それなのに、彼女には、ビックリするくらい友達がいない。
一言で言ってしまうと、ユイは変わり者だったのだ。
低学年の頃には分からなかったが、女子の人間関係に無頓着だった俺と響は、高学年になってようやく、ユイが女子達から引かれまくっていることに気付いたのである。
ユイの趣味や興味の対象は、変わっていた。たとえば、BL(『ボーイズラブ』と言うらしい)。なにそれ?な世界だった。
ある日、教室でしゃべっている俺と響のところへ来るなり、ユイはうっとりした顔で言った。
「うんうん。今日もBL日和だねっ」
語尾にピアノのメロディーを添付したみたいに弾んだ声音でそんなことを普通に言う。
BLの意味を知らなかった当時の俺(十歳)は、最初、真顔かつ素直な心持ちでこう訊き返した。
「びーえるって何?肉料理かなんかの名前?カリッカリに揚げたウインナーみたいに香ばしそうな感じがする」
ユイはプッと小さく吹き出してから、赤ちゃんに英語を教える幼稚園児みたいに得意気な顔つきとしゃべり方で説明してくれた。
「違うよ~、BLっていうのは、男同士のカップルってことだよっ!」
「えっ!?男の人って男の人と付き合ったりするの!?」
「するよ~、世の中には、私達の知らない世界が広がってるんだから」
「そ、そうなんだ……」
「そうなんだよ。響と永音って、いい感じにBLってるんだよね」
「はぁ!?俺らはただの友達だっ!世の中のことはよく知らないけど、変なフィルター通して俺達をみるなぁっ!」
抗う俺と、瞳を無駄にキラキラさせているヤバいユイを交互に見てから、響はため息まじりに、
「ユイはいつもこんなんだから、スルーでいいよ、永音」
人付き合いの上手い響でも匙を投げてしまう、ユイの暴走っぷり。
ユイと響は幼なじみだから、ユイの変態ぶりに、響は昔から慣れていた(というより、慣れざるをえなかった)そうだ。いちいち相手をするのが面倒だと言い、響はユイの発言をことごとく無視している。
ユイはユイで、タフだった。響にシカトされてもおかまいなしって感じだし、だからこそ、そういう話に免疫のない俺をここぞとばかりにターゲットにする。




