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「君の背中にある模様が、いつ、どのタイミングで刻まれたのか。その謎も忘れちゃダメなり」
もしかしたら、と言い、タマは続ける。
「君が大きな言魂の力を発動させた時期と、響君との関係が変わった理由は、無関係じゃないかもしれない。むしろ、今は、関係あると考える方が妥当なりよ」
「そんなこと言われても……」
「『響君を貶めたい』とか、邪心を抱いたことはないなりか!?」
「貶めるとか邪心とか、グロすぎるだろっ。昼ドラじゃあるまいし」
複雑な心境になりながらも、それをごまかすかのように緊迫感のないツッコミを入れた。直後、俺はハッとした。
「……いなくなればいいって、言った。さっき、響に」
ついさっきのことだ。まだ、ハッキリと覚えている。俺は、久しぶりに訪ねてきた響の言動全てに腹が立って、「いなくなればいい」と言ってしまったんだ。
「それは、いつの話なりか!?」
タマが必死の形相。そんなにやばいことだったのか!?
「さっきだよ。響なんていなくなればいいって思ったんだ。色々分かったようなこと言ってくるから、ムカついて。でも、死ねばいいとか殺したいなんて思ってないし、そんなつもりはなくて……!」
言葉は時に凶器になる。昔、母さんをなじる父さんを見てイヤほど慎重になってたのに、俺は忘れてしまっていた。言葉の大切さを。
対人関係から遠ざかり二次元に浸っていたせい?生の人間には心があるっていう当たり前のことをすっかり忘れていた。その上、自分を傷つけた響になら何を言ってもいい、と、傲慢になっていた。これじゃあ、俺は父さんと何も変わらないじゃないか……。
「タマ、俺は……。もしかしたら、取り返しのつかないことを響に言ってしまったんじゃ……」
「その通り、状況は良くないなり」
タマは諭すような言い方で、
「今すぐ響君と仲直りをしなさいと言いたいところだけど、君の気持ちを思うとそれは無理だと分かるなり。ミーはそこまで無神経ではないなり」
「俺は言魂使い。響に言った言葉が、近いうちに“実現”するんだろ?だったら、それを取り消すような言葉を今すぐ口にすればいいんじゃない!?」
「君の能力はそんなに都合の良いものじゃないなり。それなりの思いを込めて発した言葉は、それ相応の想いでしか打ち消せないなり。言魂使いの気まぐれで世界を好き勝手に揺るがされるなんて、一般人からしたら迷惑な話だしね」
「そっか……。そうだよな……。ごめん……」
無責任なことしか言えない自分が情けない。かと言って、今すぐ響と仲直りをするのも無理だ。それこそ都合が良すぎる。
タマは、俺の気持ちを尊重してくれている。でも、言魂使いを導く者的に、『静観するだけ』なんて不本意なんじゃないだろうか。
「ミーとしては、一刻も早く君と響君の関係を修復し、君が放った言葉を無効化してほしいなり」
「そうだよな。でも、それはちょっと……」
「分かってるなり。仲直りが無理なら、もっと情報をくれないなりか?君達の関係が悪くなったいきさつとか、二人が好きになった女の子のことを教えて?解決の糸口が見つけられるかもしれないなりよ」
やっぱり、そうなるのか……。
自ら進んで話したいことじゃないが、他に現状を良くする方法が無いのならしょうがない。
言魂使いの自覚なんてまだまだ皆無に等しいけど、俺だって世の中に変な亀裂を入れたくはない。
ためらいがちに、俺はユイや響のことを話すことにした。




