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「ごめんなり。君はデリケートなんだね、気を付けるなりよ。多分」
さして深く考えずあっけらかんと謝ると(多分ってのが引っかかるが)、タマは話を戻した。
「さっきも言ったばかりだが、君みたいに無欲な人間も珍しいなり。
それまで普通の生活をしてきた普通の人間が言魂使いだと自覚すると、ほとんどの場合、良くないことに力を使おうとするなり。憎む相手に復讐しようだとか、欲望のままに欲しいものを手にいれようとしたりとか」
まぁ、そうなんだろうな。俺は、ウンウンとうなずく仕草をして、
「タマが言う通りだよ。俺も人間だ。人並みに願い事はあるよ。でも、感情任せに突っ走ったら、周りに迷惑がかかるだろ?それに、こっちの勝手で関係ない人に嫌な思いさせたり悲しい思いさせるのって、なんか嫌じゃん?それで願いが叶っても、心から喜べなさそうだし」
「ふわぁ……」
感心しているのか、タマは目を丸くして何とも言えないため息をついている。
「これでも一応、平均程度に常識人のつもりだしな」
不登校ライフを除いて、だけど。
タマは頬をうっすらピンクに染めて、感激をあらわにした。
「君こそが、真の言魂使いかもしれないなり!ミーの見込み通りなりよっ!」
「そう、なの?」
「うん!」
元気よくうなずいた直後、タマはシュンとなる。
「古の時代、言魂使いの頂点を目指す者はたくさんいたなり。でもね、皆、最後は必ず同じ道に向かってしまうなりよ……。彼らは、言魂使いの能力を高め、実力を上げるうちに、罪人へと変わってしまった。
言魂使いにとって、言葉とは自由自在に操れる防具でもあり武器でもある……。起きる事象や他人の人生を言魂の力で操作しているうちに自分共々本来の目的をも見失い、その身を滅ぼしてしまうなり。
そういう言魂使いのことを、ミーの知る世界では『悪徒』と呼ぶなり」
「悪徒!?言魂使いって、そんなに怖いものなの!?
やっぱり、実感湧かないな。俺がそんな力を持ってるなんて……」
実感は湧かないのに、背筋がゾクッとした。
「仕方ないなりよ。最初は皆そうなり。その力を体感する場面に何度か遭遇していくうちに、言魂使いの自覚が持てるようになるなり。とはいえ、君にも心当たりがあるはずなり。
ちょっと、背中を見せてもらうなりよっ」
言い終わるなり、タマは俺の服の中にスマホごと入り込み、背中を這いずり回った。
「わぁっ、こっ!こそばいぃっ!」
背中でモゾモゾ動かれ、俺は反射的に体をよじった。スマホのひんやり感とぬいぐるみのモフモフ感が交互に、敏感な部分を刺激してくる!やばい!こそばいのは大の苦手なんだ!!
「まだかっ、早く出てくれぇっ」
悲鳴に近い声で訴えると、それまで忙しなく這っていたタマの動きがピタリとやんだ。
「やっぱり……。君は、何度か能力を利用していたみたいなりね。言魂使いだということを自覚していない間に」
真剣な声が、たしかにそう告げた。可愛い声が真面目に話すと、必要以上に寒気が走るのはなぜだろう。
ギャルゲーで、不運にもバッドエンドを味わうハメになった時の感覚に似てる。なんて、おかしなことを考えつつ不安をごまかした。じわりじわりと胸を侵食する、正体不明の不安。




