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俺の戸惑いなどスルーして、吹き出し型ストラップは話しかけてくる。
「ミーは、言魂使いを導く者として、この世界にやってきたなり。君を……。言魂使いを正しい方向に導くために」
「オラルメンテ?」
そう言えば、末森さんもそんなような単語を口にしてたな。でも、さっぱり意味が分からない。
俺の内心を読んだのか、吹き出し型ストラップはキュートボイスで説明した。
「言魂使いとは、自分が発した言葉通りのことを実現する能力を持った人間のことなり」
「えっと、それってどういうことだ?」
「例えば、君が『パンを食べたい』と感情を込めて口にしたとする。すると、近い将来、何らかの形で君は自分の望むパンを食べることができるなりよ。それは、家の人がお土産として持ち帰ってくるのかもしれないし、君が直接誰かにもらえるのかもしれない。自分の力を使わずに、他者や出来事を操作することで願望を叶えられる人間。そういう力の持ち主を、言魂使いと言うなり」
「それって、俺自身は努力せずに、口にした願い事なら何でも叶えられる人間ってこと!?」
「簡単に言うとそういうことなり」
にわかには信じられない話だ。でも、こうしてストラップと会話しているのはたしかだ。非現実な現象を目の当たりにした俺は、この桃色小物の言葉を信じそうになっていた。八割がた信じてると言ってもいい。
「申し遅れたなり。ミーの名前はタマ。言魂使いを導く者なり。君を導く役目を果たすため、あの店で君を待っていたなり」
「俺を導くために、あの店で待ってた?
けっこう信じちゃってるけど、タマの言うことは難しいね。俺にはピンとこないよ。今まで、それっぽい特別な経験をしたわけでもないし……」
タマはストラップの布地を駆使してドヤ顔を見せつけてきた。
「あの店の店主は、君が言魂使いだと言っていたなり。店主は、自分と一緒に働いてる占い師の魔女に言魂使いを探させていたなりよ。だから、ちょうどいいと思って、ミーはあの店で君を待ち伏せしてたなり」
「そこまでして、タマと末森さんは俺を探してたの?どうしてそこまでする必要が……?」
「末森?あの店主の目的は分からないが、無害そうだから放置しておいたなりよ。
君は知らないみたいなりが、言魂使いは非常に危険な存在なりよ。野放しにするわけにはいかないなり。よって、ミーは君を見張り、その能力をどう使うべきかサポートするなりよ」
「話は何となくだけど分かったよ。でもさ、見張るーとか危険な存在だーとか、聞いてると穏やかな話じゃないね。世界征服を企む悪どい人間だって認定された気分だよ、俺は」
「君のそういうところが、これまでは吉と出ていたのかもしれないなりね。今まで人らしい生活をしてたみたいだし。君みたいな言魂使いは珍しいなりよ」
「そうなの?」
「はぁ」
タマはわざとらしくため息をつき、
「君は自分のことを知らなさすぎるなり。よく、それで、今まで問題なくやってこられたなりね」
「そう、かなぁ?」
中学生活を後半でドロップアウトした身なのに?と、心の中で突っ込んでいると、
「まぁでも、君は心配なさそうなりね。あまり外出が好きではないみたいだし、人との交流範囲も狭いと見えるなり」
タマの鋭い観察眼に、俺はたじろいだ。うるさい!余計なお世話だ!引きこもりで何が悪いっ!
っていうか、タマって、俺のサポート役を名乗るわりには、けっこう痛いとこ突いてくるよなぁ。普通、サポーターは優しいものだろ。冒険系ファンタジーゲームに必ず一人は登場する回復役の魔法使いだって、たいてい控えめで察しのいい優しい性格をしてるというのに。
俺はちょっとした反発心から、
「タマこそ、言葉には気をつけた方がいいんじゃない?引きこもり相手に『交流範囲が狭そう』だなんて、ハード過ぎるよ」




