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現実に立ち向かう方法を見つけるのは難しい。
マイナス色に染まった感情を振り払うように、さっき配達員から受け取った封書を開封した。中の紙を破ってしまわないよう、できるだけ封筒の隅っこにハサミを入れる。
これまた珍しく俺宛だ。中には、数枚の紙。
「これは……!」
案内状と、地図。整理券とチケット。
人生で、いちばん驚いた。
封筒の中には、マミさん出演のトークショーへの招待状と、参加者用の入場チケット、そして、その後行われる握手会の整理券が行儀よく入っていた。
「な、なんで、こんなもんが届いてんだよぉ~!」
叫ぶしかなかった。信じられないんだ。興奮。そして、疑問。
ただの紙切れ達が、黄金カードの束に見える!
「たしかに会いたいと思ってたし、マミさんのことはすっごい尊敬してる!二十一歳という若さで声優としての才能を最大限に発揮し、今も、現在進行形で実力に磨きをかけてみえる、アニメ界のみならず音楽業界でも高名な人だ!
でも!会うとなったら話は別だ!相手は、あのマミさんなんだぞ!?」
わけのわからない興奮と動揺で、俺は、普段やらない独り言を口にしていた。それくらい、あり得ないことだったんだ。
「マミさんは、高校時代からすでに声優として活躍し、将来の道を約束されたお方!会えるなんて、握手なんて、一生に一度あるかないかのミラクルハッピー過ぎる状況だ。嬉しいさ、嬉しいとも!でもな、でも!
俺には何の取り柄もないし、今は引きこもり生活履歴を随時更新中のしがない十五歳!」
そんな男に、今をときめく人気声優と対面しろだなんて、運命のイタズラと言わずして何と表現すればいいんだ!
まさか、神の策略!?俺の中に、たぐいまれな能力を見出だしたどこぞの神が、俺の力量をはかるべく、こんな大イベントを挿入したのではあるまい!?
イカンイカン。突っ走ってしまった。これではただの恥ずかしいヤツではないか。
他人との交流が激減してから、どうも妄想癖がついてしまったらしい。
本来の自分に戻るべく、両手で頬を強く叩き、再度、チケットを見つめた。
マミさんのトークショー&握手会。行くか、行くまいか……。本気で悩むぜ……。
俺は、身だしなみにはそれなりに気を使う方だ。学校生活を送っていた頃は、毎月美容院で髪を整えてもらっていたし、トイレの後は毎回ハンドソープや石鹸を使って手を洗う。不登校中の今だって、誰かに会うわけじゃないのに、毎日風呂には入るし、食後の歯磨きも欠かさない。
ただ、現在の髪はボサボサで、ちょいちょい枝毛がある。他人の視線を気にしない生活を送っているせいか、だらしない外見になったなぁと自覚している。
そんなファンに握手するなんて、マミさんは嫌がるんじゃないだろうか。




