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「もし、俺が言魂使いだったら、どう思う?」
そんな質問を飲み込み、俺は母さんとの朝食を終えた。
出掛け際、母さんが突然、こんなことを言った。
「永音。父さんに会いたいと思う?」
「え?」
「離婚してから、一度も会ってないでしょ?
会える場所に住んでるんだし、永音は父さんの息子なんだから、私のことは気にせず会ってきてもいいのよ」
俺の返す言葉は決まっていた。
「今の生活がいい。不満なんてないよ。行ってきます!」
元気に手を振り、家を出た。
いきなり何を言うかと思ったら。母さんらしいけど、俺の家族は母さんだけだ。それがいい。
血のつながりのある父さんのこと、気にならないと言えばウソになるけど、居なくても大丈夫。
俺には大切な場所が出来たし、それより前から、大事にするべき存在に囲まれていたと分かったから。
それに、誰かとの関係が切れるのは仕方のないことだ。親子だってそう。父さんのこと、失くしたんじゃなく、自分から捨てたんだと、俺は思ってる。
『言魂』に到着。
やっぱり、どれだけ日陰を通るようにしていても夏の暑さは避けられない。
店の扉を開けると、中からクーラーの涼しい風が流れてきて、汗ばんだ体に心地良かった。
「永音さん!お待ちしていました」
カウンターで調理か何かをしていた瑞希ちゃんが、明るく出迎えてくれる。久しぶり。この感覚が、すでに懐かしい。
「最近、ずっと来られなくてごめんね」
「いいのですよ。夏休みですし、永音さんは受験生。色々とお忙しいのは理解していました。すぐに、冷たい飲み物をお持ちしますね」
てててと奥に引っ込む瑞希ちゃん。いつもと違うのは、俺以外にも客がいるということだった。
店内中央の丸テーブル。唯一、客が座れる場所。8つあるイス。
いつも俺の座っている席にはその先客が座っていたので、俺はその人から少し離れた席に腰を下ろした。




