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「父さんに言魂使いの力があったかどうか、母さんには分からないけど……」
「え?先祖が言魂使いなら、父さんもその血を……。力を引き継いでいるんでしょ?」
「それがね、そうとは限らないそうなの。言魂使いは、その能力はもちろん、遺伝子構造も特殊だとかで。その血を引いたからといって、必ずしも先天的に言魂使いの能力を持っているわけではないのよ。
父さんは昔、自分に言魂使いの力があるかどうか試してみたことがあるらしいけど、結局何も起こらなかったんだって」
「そうなんだ……」
父さんと母さんが別れた理由。父さんが無自覚のうちにマイナスの言葉を放って言魂使いの力が働いたからだと俺はにわかに思ったけど、そうじゃなかった。二人は別れるべくして別れた、ということか。
「隔世遺伝、と言うとちょっと違うのかもしれないけど、言魂使いの能力を継いだ子も、何十人に一人産まれるか産まれないかっていうくらい、出生率が低いそうなの。
母さんの知る限り、父さんの親戚にそれらしい人はいなかったわ。父さんも含めて、ね」
そうだったのか。瑞希ちゃんやディアのいた世界の話を聞いていたからか、言魂使いってもっとたくさんいるものだとばかり……。そうとは限らないんだな。
母さんの話に、俺は納得した。
「母さんも、言魂使いなんて嘘か本当か分からない伝説なんだとばかり思ってたし、父さんも信じてないと言いきった」
「じゃあ、何で俺にその話をしたの?信じてないのに……」
「永音にももっと早く話すべきだったんだけど、別れた父さんのことを思い出させるのも気が気じゃなかったし、結婚中は結婚中で、永音には言うなって父さんに口止めされてたのよ。『そんな下らない話、するだけ無駄だー』って怒らせちゃってね。
永音に、自分のようになってほしくなかったのかもしれないわね、父さんは」
「そんなこと思うような繊細な人じゃないって、あの人は」
毒づく俺の気分を明るくするためなのか、母さんは持ち前の楽天的スキルを発動した。
「言魂使い伝説。本当のことを言うとね、母さんは少しだけ信じてたというか、そんなことが実際にあったら面白いだろうなぁって、ほわんと考えてたんだけどね」
いや、そんないいことばかりでもなさそうだよ、現実は。などとは言えず、その代わりというわけではないが、俺は胸から湧いて止まらないことを口にした。
「……父さんの先祖の……。言魂使いの血を継いだ人達は、何らかの形で自分達が言魂使いであるという事実を後世に残したんだよね?だからこそ、父さんや母さんの耳にまでその話が伝わったんでしょ?」
俺は前のめりになっていた。
自分がその血を引いてるんだと知ってる以上、もっと、言魂使いに関する話を聞きたい。
そんな俺の仕草は、母さんの目に“伝説を信じている”様に見えたのだろう。母さんはやや驚いたように目をパチクリさせ、
「そうね。戦前までは、言魂使いの活動記録が残されていたらしいわ。でも、空襲などでそういった記録は全て焼けちゃったんだって……」




