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「昔にね、言魂使いと呼ばれる種族が存在していた、という伝説があるの」
母さんは語る。
「江戸時代にはそのほとんどが姿を消したと言われているけど、大正時代から昭和初期にかけて、言魂使いは少数ながらひっそり生きていた――」
オラルメンテ……。母さんの口からその単語が出てくるなんて信じられなかったし、夢でも見てるんじゃないかって気にもなったけど、心の大部分は、今を受け止めていた。
「オラルメンテ?」
俺は、初めて知った風を装った。母さんはこっちの動揺に気付かず、説明をしてくれる。
「言葉の『言』に『魂』という字をつなげるとコトダマという単語が出来るの」
自分のカバンから手帳を取り出すと、母さんは白紙のページに言魂と書いた。
「一般的に使われるのはこっちの“言霊”で、ケータイやパソコンの予測変換でもコトダマと打つとこっちが出てくるけど、今話している言魂は言霊とは違うのよ」
メモ帳の紙面に並ぶ“言霊”と“言魂”をそれぞれ指さし、母さんは言葉を継いだ。
「コトダマを自由自在に操ることが出来る種族のことを、オラルメンテと呼んでいたのよ」
言魂使い。オラルメンテ。すでに知ってる単語。その意味を身内から聞かされるなんて変な感じだ。末森さんや瑞希ちゃんに説明された時はこんな違和感はなかった。母さんが普通の人間なだけに、よけいそう思ってしまう。
「永音にとっては遠い国のおとぎ話にしか思えないかもしれないけど、父さんの家系に、言魂使いの人がいたんだって」
「父さんが!?」
俺がこういう力を授かったのは、父さんの子供だったからなのか!?
「それって、父さんの先祖が言魂使いだったってこと!?」
席を立ち、俺はテーブルの上に両手をつく。
「永音、落ち着いて?」
「ごっ、ごめん」
こんな反応したら、母さんは変に思うよな。
俺はすぐに座り直した。心臓がバクバクいってる。




