金(きん)と金(かね)
「それでさあ、俺が商売しに行った国が酷いんだよ」
とある国で私は偶然酒場で知り合った旅商の話を聞いていた。
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俺がこないだ訪れた国は機械文明が進んでいてさ、妙に珍しい品が多かったんだよ。
この国の品を余所で売れば確実に儲かるとも思って、持ち合わせのもので何とか持ち帰れないかと思ったわけだ。
それで適当に珍しい物を見つけて、物を売っているそいつに「売ってくれ」と頼んだんだ。
前の国の商売が見事に当たってかなり余裕があったからさ、出す金に糸目はつけなかったんだよ。
ところがソイツ「売りましょう」と言ったくせに俺の出す、硬貨も紙幣にも全く無反応なんだよ。そんでもって「お金出せ」って言いやがる。
でもさ、それ余所じゃ本当に珍しい品だからどうしても欲しくて。とっておきを出したんだ。
お前でも知っているだろ? メリュー金貨。
かの亡国メリュー帝国の第三十二代皇帝が権力を示すためにされた鋳造したと謂われる99.999999%<ナインエイト>の金貨。
どんな国でも信用できる貨幣と有名なこの貨幣と引き換えなら、流石に売ってくれるだろうと思うだろ?
ところがさ、そいつなんて言ったと思う?
「お金はどこ?」だと。
その時俺は悟ったね。「ああ、コイツ。お前たちみたいな国からしたら、俺みたいなどことも知れない田舎の野郎に売る気なんてないんだ」ってね。
俺、腹立ったから、商売もせずにその日のウチに出国してやったんだ。
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私は、翌日早速その国に早速向かうことにした。
話に聞いた国がどこにあるのか道を聞いた旅商は、えらく反対していた。
しかし、その国の一般的な乗り物であるらしい「ろぼっと」となる鉄の巨人を一目見たくなったのだ。
件の国に着いたとき、私はさっそく買い物を行うことにした。
旅商の話を信じない訳では無いが、貨幣が通用しないのか試したかったのだ。
試してみると確かに旅商が言っていた通りの反応を相手はしてくれた。
だが私の場合は、旅商の時と少し違っていた。店員が私に尋ねてきたのだ。
「ところでこの紙屑と金属の板はなんですか?」
聞くところによると、彼らの国には紙幣や硬貨などの通貨は存在どころか概念すらないらしく、代わりに「でんしまねー」というもので生活しているらしい。
驚くことにこの「でんしまねー」は紙幣や硬貨と違ってただの電気信号でできているらしい。
「所でこれ、金でできているんですけど駄目ですか?」
「イラネ。お金をください」
金よりもただの電気信号でしかないお金を欲しがる理由が私には全く分からなかった。
ところ変われば金変わる
今作品は、ブラックショートショートの派生として書かれたもので、次がなかなか出ない場合は、ほかのショートショート作品を書いている可能性が高いです。