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理想の布団様とアメーバ人  作者: アルタ
第1章 異世界は意のままにならぬことの連続である
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2 所持品確認したら空腹でした

 それにしても、エルフ=知識チートというイメージがあるんですが、木の幹から生まれてしまったら知識の継承がなされないと思うんです。知識は重要です。知識は重要です。大事なことなので2回言いました。

 なぜならば、今後の人生設計を考えるとどうしても生きていく上で、この世界についての知識が不可欠だからである。リスクは勿論のこと、食べられる植物、生き物の生態、ハイエルフ以外に種族がいるのか、集落はあるのか等の基礎的な知識まで全くないままで生き抜けるなどという甘い考えは持っていない。


 一応、前世での知識があるから「水を3日飲まないと死ぬ。水だけなら1週間が限界」あたりの目安がつくのは嬉しいことだけれど、ハイエルフの体も同じなのか良く分からないので、喜んで良いのか微妙だ。

 やるべきことは山ほどあるが、とりあえず頭が回っているうちに短期目標と長期目標を決めることにした。


<短期目標>

 ・水と食糧の確保

 ・とりあえずの寝床確保

 ・緊急的に必要な知識の取得


<長期目標>

 ・衣服を含めた備品の確保

 ・住居確保

 ・この世界についての知識の取得

 ・持続可能な生き方発見


 そう、ゆくゆくは持続可能なスローライフですよ!

 そのためにはコツコツとサバイバルしていかねばなるまい。ここに異世界の住民との交流という項目がないのは私がアメーバ志願者だからなのだけれど。

 個人的な希望としては、この森に狼などの危険な動物がおらず、食べられる食糧と水が確保可能、ちょいと身を隠せるような木の根元か洞穴を発見できれば大変嬉しい。

 まあ、希望は希望。その通りになるとは限らないので、極力期待し過ぎないようにせねば。


 頭の中に浮かんだベストライフをぶんぶんと首を横に振って打ち消す。それからまずは辺りについての情報を得ようと、私は自分が生まれた樹に登ることにした。何せ現在の自分は大変小さいので、見渡せる範囲が狭いのだ。上へ登れば少しはあたりを見回せるだろうという魂胆である。

 木登りなんて久しぶりだが、体重が軽いのでなんとかなるだろうと楽観視し、枝に手をかけた。するすると登れば、だんだんと森の全容が見えてくる。


 うーん、森! 林! 木! ですよ。森林浴といったキーワードがピッタリ当てはまりそうな美しい緑のじゅうたんに、現代っ子の私は感嘆した。飛行機から見た日本も緑のじゅうたんだったけれど、あちこちにゴルフ場の開発などが見えたものだ。


 うっそうと生い茂るというよりは、適度にまばらなところもある森から地平線へ目を向けると、太陽のある方(多分南側)に巨大な山脈、逆側(多分北側)に小さな村が見える。ちょうど良いことに、ここは平地よりも少し高い山の中だったようだ。ただ、ここの地形は凹凸に富んでおり、東側(推定)のごつごつした地形の奥はあまり良く見えなかったし、西側の砂漠の先も砂煙のせいか曇っていてよく見えなかった。

 太い枝から手を離さないように細心の注意を払って、1つ下の太い枝へと移る。危険な動物はいないか、川が近くにないか見回すが、それらしきものは発見できない。ああ、ここまで双眼鏡が欲しいと願ったのは生まれて初めてだと思う。


 とりあえず、近づくかどうかは保留にしても、村を発見したのは大収穫だった。死に掛けたら一か八かで避難できそうだから。大人の足で半日、子供の足なら1日程度あればたどり着けそうだ。よしよし。

 よじよじと樹から降りると、私は下に置いてあったポーチに本を突っ込んで肩から掛ける。それから近くに生えていた草を掴んで簡単に編み込み、生まれた木の枝にぐるりと引っ掛けた。一応目印である。それから落ちていた枯れ枝を拾って、上から見た東西南北を地面に引っかくようにして書いておくことにする。コンパスの絵で良いだろう。


 緊急避難的な遭難対策をした後、どこから進もうか考え、私は東へ行ってみることにした。南の山脈と西の砂漠はどう考えても死亡フラグだが、北の村へ突撃するには少し勇気がいるなと思ったゆえの消去法だった。岩場があるということは水があるかもしれないしね! とりあえず半日東へ行ってダメだったら、ここに戻ってきて南へ行こう。うん。


 方針が決まったので早速出発だ。ワンピースじゃなくてズボンだったら良かったのに、とか、本じゃなくて手袋が良かったとか、サバイバルナイフが欲しいんですけど、なんてあれこれ欲求が出てきてしまうけれど、ポーチがあるじゃないか! と少し意味不明な慰めを自分にかける。

 もしかしたら、これ、「デフォルトで北の村に行くだろうから、いいんじゃね?」的な装備だったのかもしれないけれど、私は諦めない!

 アメーバ生活を!


 ぐっと握りこぶしを握ると、ぐきゅるるるるる……という情けない音があたりに響いた。言わずもがな、腹の虫からのハングリーなお知らせ。

 どうしよう、冒険者レベル1(生後1日目)は早くもピンチかもしれません。


 きょろきょろと辺りを見回すと、オレンジ色の実やキノコが所々に生えているのが目に入る。キノコはただでさえ毒キノコと食用キノコの見分けがつきにくいだけでなく、食用でも生で食べるとおなかを壊すので論外として、実のほうは期待しても良いだろうか。

 大きさは直径約2センチの球形。蜜柑の小さいものを想像して欲しい。皮はつるりとして柑橘系の良いニオイがする。丈は私の身長くらいなので簡単に収穫できそうだ。


「ううむ……少しだけ齧ってみるか」

 一つ手に取って、じいっと見つめる。匂いをかいだり、ちょっと手で払って舐めてみたり。思い切って前歯で少しだけ噛んでみると、金柑のような爽やかな味が舌に広がった。美味しい!

 生の果物だから、食べすぎるとおなかを壊すかもしれないと自重するが、サバイバル生活にテンションが上がったのは本当である。


 プチプチと十個ほど採取するついでに、剥がれかかっていた黄色い樹皮も採取しておく。こちらの世界と向こうの世界が同じかどうかは分からないが、前世ではミカン科の黄色い樹皮が胃腸の調子を整える生薬として使われていたのを思い出したからだ。確か苦かったけど。


 冒険者レベル2くらいにはなれたかもしれない……などと、こっそりほくそ笑みながらポーチに樹皮を入れたとき、その変化は突然起こった。

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