ただ歩いた
道を外れたと評される男が一人
歩いていた
手さぐりして
目を凝らして
なんとか歩いていた
階段を上って
屋根を伝って
坂を下って
それから月明かりに地図を照らして
なんとか「道」をみつけようと
歩いていた
分からなくて
でも 見つけたくて
歩いていた
まだそこにいるのかと詰られ
お前は間違っていると詰られ
いらないと切り捨てられた男が一人
歩いていた
広い場所に出ようともがいて
高い丘に登ろうとあがいて
必死に歩いていた
地に潜り
太陽を探して
真夏の猛暑の中を
寒空の中でも
あきらめずに
歩いていた
分からないような
でも 見つけたような気がして
這い蹲った
辿りついたその先で
男は絶望する
幾つかの時の前に自分が歩いた
「外れた道」に舞い戻っただけだったから
泣いた
男は全てを手放して
男は慟哭して
男は悲しみに押しつぶされて
男は足を切り取って
去って行った
幾つかの時を経て
その道を辿るものが現れたとしても
その道を憧憬するものが現れたとしても
その道を歩いた男の痛みは消えない
幸せな信者は
不幸せな殉教者を
救えはしない
全ての真実は先進的という言葉の中で
数億の憐れみの前に
消し去られる
幸せな信者の弔いが
不幸せな殉教者に
届くことはないだ
男は未だに彷徨っている