選択としての無行動
ベッドの上に産み落とされ
ベッドの上で育ち
ベッドの上で過ごし
ベッドの上で最後を迎える
それが出来ないものはそこから這い出て
自分の思うがまま生きる
歩く
もしかしたら躓くかもしれない
観る
もしかしたら読み間違えるかもしれない
話す
もしかしたら人を傷つけるかもしれない
何もしなければ何もないのに
何かを変えようとしたために
人は慣性の法則により止まることなく
世界の軸に影響を及ぼす
微々たる影響といえど影響
つまらぬ仕草といえど分かれ道
生まれ出でて
あらかじめ備えられた思考故に
人は欲を抱く
必要とされたい
成功したい
望むものを手に入れるために
齷齪動き回る
失敗は成功の母と言ったのは
どこのどいつだったか
青年よ、大志を抱けと言ったのは
どこのどいつだったか
奴らは成功したから言えるのだ
叶えられずに終わった虚しい人生を送らずに済んだから
傷ついた数より叶えられた数の方が多いから
そう思えるからそんな言葉が口を衝いて出る
実際のところ、動けば必ず誰かが傷つくのだ
動かなければ何もないのに
僕は一切を止めて
ベッドの上と僅かばかりの空間に
身をひそめて暮らすようになった
悟りを開いた
これで安全だ
そう思っていたのに
今日もドアをノックする音が聞こえる
今日もドアの外から悲痛な嘆きが聞こえる
僕の安全な世界から皆引き出そうとする
僕の安全な世界が次第に重くなっていく
ほっといてくれと何度願っただろう
僕は何もしない
何も行動を起こさない
何も起きない
それでいいじゃないか
何故だめなのですか
何故呼吸のみの生き方は許されないのですか
何故五感を鈍らせて生きることは許されないのですか
あぁ、また始まる
ドアがノックされる
ドアの向こうで懇願の涙が流される
そんなにもこの生き方は悪ですか
そんなにもこの生き方は非常識ですか
ならばお望み通り外に出ましょう
望むがままに
大志を抱いて外に出ましょう
望むがままに生きた生き方は
結局、他者を傷つける罪になった
泣いても喚いても
僕の手に嵌められた重たい枷は解かれない
首をへし折られても
溶かれることはないだろう
誰が間違っていたのか
誰も裁いてはくれないのだから




