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世界最強の航空機動部隊  作者: 橘花
昭和 8
90/90

正義は無い

-ワシントンDC-


既に首都のほうにも日本軍が西海岸への上陸作戦を開始したというニューズが流れている。


「日本が西海岸へ上陸し、更にはパナマ運河への降下もしたらしい」


パッカードに乗るテイラー大佐は隣に座るグルード編集長に言う。


「それは既に聞き及んでいる。そして、遠いアジア大陸のこともな」


「ソ連の満州侵攻ですか?」


「はい」


テイラーは驚いた。テイラーは一応大佐なのでアジアの情報が入ってくることは当然だが、全国紙であるデイリーワシントンがこんなにも早くの情報を得ているのだから。


「ニューヨークタイムズよりも3時間早く号外した。今やアメリカでの新聞ニュースシェアをほぼ独占しているといっていい。何処よりも早く、新鮮な記事リポートを届けるのが我が社の企業理念ミッションステートメントなのだ」


「この66万人のワシントンDC。そして、1億3000万のアメリカ国民が貴方方の書いた記事を見ているんですね。そして、私の意見も多く広まっているようだ」


すると、グルードは運転席の座席後部の入れ物から新聞を取り出す。


「これが最新の大統領支持率だ。少しずつだが低下していっている。幾らアメリカ合衆国の最高為政者といえど、民衆の意見を無視することはできない」


「民主主義がこの国の建国理念の一つ。人民の為の政治。カナダにあるイギリス亡命政府もアメリカを試しているのだろう。講和への訴えをはじめた国民を、自分達から民主主義という挑戦をして独立したアメリカ政府が無視するか否かを」




-リド・ホール-


「ソ連軍が満州へ?」


紅茶を飲んでいたチャーチルの下に報告が届いた。


「ランカスター50機程を送ってやれ。ハワイを経由すればぎりぎり日本本土まで飛べる。そこから満州へ向かわせろ」


「首相、宜しいのですか?貴重な戦略爆撃機ですよ」


カナダにて既に兵器生産が始められているが、大型爆撃機を製造するだけの余裕がまだ無い。なので本国から逃げ切ったランカスターは貴重な大型重爆だった。


「構わんさ。日英同盟締結の記念に、向こうは紅茶をくれたんだ。そして、こちらは何も渡せなかったからな。ならば同盟国の危機に重爆を送ってやらんで、同盟国と言えるのか?」


「わかりました。直ちに用意させます」




-紀伊-


「射撃用意良し、撃て!!」


上陸した部隊への支援砲撃を続ける紀伊は西海岸を片っ端から砲撃を行い、弾薬を8割使い果たした。


『三式弾はもう各門10発もありません』


主砲塔からの有線通信が届いた。


「一旦、陸から距離を取って補給艦隊と合流だ」


山本はそう指示を出し艦橋を降りる。




-瑞龍-


「山口司令、大和から第四次攻撃隊発艦要請です」


「わかった許可する。行かせろ」


大和よりも司令部機能が優れている瑞龍を新旗艦に据え、航空戦の指揮を執る山口は内陸へと侵攻を始めた陸軍部隊の援護に全力を注ぐ。


「第二航空艦隊より入電。パナマ運河制圧せり。現在、艦隊を北上中」


「小沢さんがやってくれたか」


小沢治三郎は瑞鶴、翔鶴をはじめ飛翔、鶴鷹の4空母で編成された高速機動艦隊である。日本海軍は戦時急増、改造空母を合わせて18隻の大型空母を有し、更に中型・小型の戦時急増、改造空母を合わせて30隻保有する大機動艦隊を作り上げていた。


「こっちも負けずにやれ。内陸の飛行場を占領するまで、俺たちが上陸部隊の上空を守らねばならん」




-虎頭要塞-


「ソ連軍の勢いが弱まりました」


石原のもとにそんな報告が届く。


「よし、列車砲に援護要請だ」




「虎頭要塞の石原閣下から支援要請です」


日本軍が保有する唯一の列車砲24cm列車砲が再びソ連軍虎頭要塞攻撃部隊に向かって再び砲撃する。今までは最初の数発を除いて後方の兵站基地やシベリア鉄道に向かって攻撃であった。


「41cm榴弾砲も一緒に撃て」


あらゆる火砲を集めてソ連砲兵部隊と撃ち合っていた日本軍はようやくここで優勢を持った。その為、41cm榴弾砲を侵攻部隊へと向けられる。


「撃て!!」


並べられていた火砲が一斉に火を吹き、ソ連軍の陣地へと着弾した。




「閣下、敵の陣地が壊滅しました。しかし、既に我が要塞を迂回して侵攻した部隊が哈爾濱ハルビン奉天ホウテン斉斉哈爾チチハルなどの主要都市に迫っているそうです」


「新京には迫っているか?」


「幸い吉林ジーリンにて止めたそうです。救援陸軍も駆り出したそうです」


石原は報告に来ている将校の顔を見る。


「君は彼らの装備を見たことあるかね?」


「いえ」


「彼らは歩兵は我が軍のいかなる機関銃よりも発射速度の速く命中精度も高い銃を備えている。更に火砲は大型のもので203mmで同じくどの兵器よりも速く撃てる。戦車も荒地も整地も関係なく機動力が高い。彼らの装備はすばらしいの一言だよ」


将校は驚く。


「一体、彼らは何者ですか?将校と言えど、我々は末端みたいなものです。彼らの情報が入らないんです」


「なーに、案ずるな。彼らは味方だ。今はそれで良いじゃないか」




-吉林市-


「市街地へと入ったソ連軍を追い出さなくちゃな」


89式小銃を持った救援陸軍の一個小隊は吉林市街へと入った。


「情報端末で敵の位置を砲兵陣地に送れ」


言われた兵は情報端末を操作し、位置を記した。そして、それが砲兵陣地に送られる。



「市街へと入った部隊が送られてきました」


「良し、砲撃するぞ。狙いを付けろ」


155mm榴弾砲が狙いを付ける。そして、砲弾を装填して準備が整う。


「撃て!!」


放たれた砲弾は



「やった。流石だ」


見事に命中した。




-ウラジオストク-


「ジューコフ司令、日本軍は各地で精強に陣地を守っており突破できません。損害が増えるばかりです」


「幾ら人が沢山居るからって、これでは犬死だ。ジダーノフの馬鹿野郎が。だから日本軍とは戦いたくないんだよ」


「それはジダーノフ同志への侮辱と取るぞ」


NKVD、内務人民委員部。ジダーノフが既に掌握している組織。反乱分子やスパイの処刑など。そして前線での督戦隊としての役目をもつ組織だ。


「NKVDは黙っていろ。今の軍務の全権は私にある。NKVDいえど、指図は受けん」


ジューコフはそう一喝する。恐怖の対象でしかないNKVDにそこまで言う司令官に、司令部の人間は冷汗を流すが、同時に尊敬の念を抱いた。


「粋がるなよジューコフ。モスクワ防衛に失敗して罷免されかけたのをジダーノフ同志が救ったのを忘れたのか?」


「まさか、日本へ侵攻するために助けたのだとしたら残念だったな。通信、全軍に降伏を伝えよ。この戦いに正義は無い」


「ふざけるな!!」


その瞬間、NKVDの人間がマカロフ拳銃でジューコフを撃った。


「き、貴様」


ジューコフは左肩を撃たれた。


「中央に戻って軍法会議にかけてある。そこのお前、この反逆者を一先ず牢に入れておけ。ここからは私が指揮を執る」


呼ばれた兵は嫌々そうにジューコフを支える。




「閣下、外にパッカードが用意してあります。自分が運転するので脱出しましょう」


「良いのか、君は?」


「構いません。どうせ国に帰っても待っている家族は居ません。私は元コサックです。家族は殺され、私はドイツ軍に突撃しました。一緒に突撃した者は死に、友も失いました。もう帰っても意味がありません」


コサックは反革命分子と見なされ、多くの者が殺されるなどした。生きている者も最後にはドイツ軍への突撃を強要されるなどし、こちらも多くの者が殺された。


「そうか」


ジューコフは兵に支えられながら車にたどり着く。兵はジューコフを後部座席に乗せて自分は運転席に乗る。


「病院に行きます」


「違う。新京だ。この戦いを止める」


「無茶を言っているのは分かりますか?」


「多くの命を無駄に殺しているんだ。無茶をしなければ止められん」


兵も観念する。


「分かりました。確り掴まって下さい」


エンジンをかけ、アクセルを踏み込んだ。車は勢いよく走り始め、ウラジオストクを後にする。

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