準備
-平成 東京 パークハイアット東京-
「日本のこの裏切りは許されることではないのだ。同盟国アメリカに対する裏切りは、今後の日米関係の悪化に伴う共同防衛が取れなくなってしまう。だから、何としてもこの情報をCIAの人間に渡してもらいたい。」
アメリカとの関係を特に重視したがっている外務省の役人は、アメリカとの関係悪化を恐れ、極秘裏にCIAのエージェントと会う約束をしたのだ。
「大臣、こんな事をして許されるのですか?」
「仕方が無いのだ。日本を、軍国主義に戻してはならない。」
そこへ、ドアが開き
「確かに、日本を軍国主義に戻すわけにはいかない。しかし、貴方がやっている事は国家反逆罪。総理の意向に相反する行いをしているのです。」
外務省には色々と影の噂が出回っているのを北里は小耳に挟み、念のために部下に見張らせていたのだ。そして、反逆を企てていることを見抜き、部隊を引き連れてやってきたのだ。
「防衛大臣、自分が何をやっているのか分かっているのかね?」
「勿論、分かった上でやっていることです。祖国を守る。これをやって、何が悪いのですか?」
「やはり、軍国主義に日本を戻したのではないのかね?」
「少なくとも、貴方の様な非愛国者に言っても無駄なことは分かっています。国を守る本当の意味を、戦後教育では一切教えられなかったのですから。」
「貴様、戦後の日本を裏切るのか?」
「貴方だって、今裏切ったのではないですか?外務大臣。」
北里は拳銃を抜き、
「国家反逆者は、本来射殺しても許されるのです。しかし、死んだらまた面倒なので。」
北里は銃を隣に居る自衛隊員に渡した後、外務大臣に近づき
「気を失っていただきます。」
そう言って外務大臣の腹を思いっきり殴って、気絶させた。
「連行しろ。それと、この男も留置所に収監しろ。」
自衛隊員が気絶している外務大臣を運び、外務大臣を補佐していた男も連行した。
-昭和 ガダルカナル-
「凄い。」
守備隊長の川口少将は輸送艦から揚陸される戦車を見て驚く。この時代では考えられない傾斜装甲、長い主砲にドイツ戦車よりも高い機動力。全てにおいて、現在の戦車を卓越した無敵の戦車であることは簡単に理解できた。
「こ、こんな物が80年後に存在するのかね?」
「はい。」
島崎は、運ばれてきた戦車と、陸揚げされている食料や追加の浄水車、野外炊飯一号を見ている。
「この戦車で、上陸してくる連合軍を迎え撃ち、ガダルカナルを死守します。」
「素晴らしいよ。この戦車は、一度乗ってみたいもんだな。」
「後で、乗ってみますか?現在の戦車の様な蒸し風呂状態って程ではありませんよ。」
第二次大戦当時の戦車兵は、戦車の中は蒸し風呂みたいだったと語っている。冷却装置などが無い中で閉め切っていれば夏は地獄だと言う事は想像出来るだろう。現在では、戦闘中こそセンサーの感度が下がるから冷却装置を作動させないが、平時はそれなりに快適なのだ。
-東郷-
「現れますかね連合軍は?。」
江田原は艦長の林原に言った。
「来るだろう。あくまでも、勘だがな。」
「艦長の勘は当てになりますよ。」
「索敵機の報告では、周辺海域の安全は確認されている。少なくとも、史実どおりの日付に上陸決行は無いな。」
「連合艦隊司令部は、2式大艇でハワイを偵察しましたが、出撃する兆候は見られなかったそうです。」
「2式大艇か。真珠湾を再空襲した機体として知られているだろう。それが、再びハワイを今度は偵察任務で飛行したんだ。アメリカのプライドは完全に破壊したな。」
「飛行艇如きに逃げられたって喚いてますよ、今頃。」
2式大艇。正式名称は2式大型飛行艇、第二次大戦に日本軍が使用した大型の飛行艇だ。日本は、水上機関係では世界の追順を許さず、独創的な水上機も次々と開発した。その中でもこの2式大艇は世界の飛行艇の性能比較をしても全てにおいて卓越した最高の飛行艇として今でも名高い海軍の名機なのだ。
「しかし、まだ出撃していないとは妙だな。」
「ええ、そろそろ出撃してもおかしくはないのですが。」
「海自の潜水艦を派遣して探らせてみよう。内地の横須賀鎮守府に連絡しろ。」
自衛隊は、いくら旧軍支援という任務があるとは言え、命令系統は別物なのだ。だから、軍令部や連合艦隊司令部の命令は基本的には従わなくても良い事になっている。なので、各艦隊司令官の独断行動もある程度までは許されているのだ。
「了解。至急、連絡します。」
そう言って、江田原は無線室へと向かった。
-平成 首相官邸-
「総理、予想通りでした。やはり、聞き分けない者がアメリカに情報を売ろうとしていたのです。」
北里は、外務大臣を締め上げて他の反逆者の内の数人を逮捕することは出来たが、まだ安心できないのだ。
「そうか。やはり、日本がアメリカに逆らうのを快く思わない者が居たか。」
西澤は少し、俯き加減になる。
「総理、彼らは日本がアメリカに歯向かう事が軍国主義の再来と叫んでいるのです。しかし、なぜ日本が軍を持ってはいけないのか私は分かりません。日本が軍を持てば軍国主義になるとなぜ分かるのかも私には分からないのです。」
「防衛大臣、気持ちは分かるが今は堪えてくれ。彼らに対して怒りを覚える気持ちも分かる。しかし今、同民族同士での問題に振り回されている訳にもいかないのだ。」
北里は、首相官邸に飾られている掛け軸を見る。そこには『平和は一時のものです。しかし、戦争もまた、一時のものなのです。』と書かれている。
「総理、アメリカに気づかれた動向はありませんが、議員の内部に居る敵をどうかせねばなりません。それに、外国の敵はアメリカだけではない。中国や、韓国、北朝鮮なども日本にスパイを送り込んでいる可能性があるのです。」
日本は、よくスパイ天国だと言われている。日本ではこの、スパイに対する取締りが甘いのだ。だから、各国の諜報機関は日本を諜報員の練習台にしていると言う噂まで出ている。それに、同じ東洋人の中国や韓国人など、名前を聞くまで何処の国の人種が分からないのだ。だから、同じ東洋人は日本でのスパイ活動がしやすい。
「分かっているよ、防衛大臣。何とか、言い訳も考えてあるが、所詮は言い訳だ。時間稼ぎでしかない。だから、何とか感づかれないように協力してくれ。」
「分かっております総理。」
8月23日
-真珠湾-
「艦隊出撃!!」
簡単な応急処置を行ったエンタープライズと、旗艦のサラトガ。それに、新鋭戦艦サウスダコタ、インディアナを入れた機動部隊が真珠湾を出航したのだ。そして、米第一海兵師団を乗せた輸送船と、それを護衛する艦艇も泊地から出撃して行った。