北の反撃 崩壊編
-スウォン市-
司令部であるセミトレーラー内では斥候部隊から送られてくる情報と無人偵察機から送られてくる情報の処理を行っていた。
「敵は北に展開しております。野砲などの遠距離砲は確認されていますが、攻撃の兆候は見えず、展開しているだけです」
偵察機の写真を数枚、乃木に見せる。乃木はそれを一通り確認し、机に置いた
「それなら、反撃は可能ですかな?」
「既に先遣戦車隊を派遣しました。側面を突き、それによって生じた穴にヘリ部隊とともに車両部隊がなだれ込んで大きな楔を打ち込みます」
作戦を説明している最中、壁のディスプレイに謎の光点が20個ほど出現した。それによって、トレーラー内は慌しくなる。
「何事です?」
「たった今、所属不明機が半島に侵入し、まっすぐこちらに向かってきています」
「空軍に確認できませんか?」
「スクランブルで飛び立ったF15があります。ガンカメラの映像にリンクします」
すると、一つのディスプレイにスクランブル発進したF15のガンカメラ映像が映し出される
そして、編隊飛行するC17とエアバス300を見つけた。
「イギリス、フランス、ドイツの国旗ですね。何の為にここまで?」
編隊飛行しながら悠々と半島に侵入し、こちらに向かってきている
「攻撃の為とは思えませんが、一応は意図を聞く必要がありますね」
乃木はそう言ってマイクを持ち、F15パイロットに接近の意図を問うように伝えた
「乃木閣下からの命令だ。回線を開くぞ」
スクランブルしたF15は真後ろについてから回線を開く。
「あ、あ。こちらは日本空軍。現在この空域は戦闘状態につき閉鎖中。飛行の意図を述べよ」
『こちらは欧州空軍戦略輸送部隊。貴国日本への援助物資を輸送中』
「カーゴを開けていただく」
『了解』
各機が貨物室の扉を開ける為に速度を落とす。そして、カーゴが開き始めた。
「確認した。砲弾その他を確認するも直接の戦闘兵器は積んでいないな」
戦車等の直接戦闘が可能な兵器が積まれていたら着陸許可が出なかっただろうが、それらしき物は積まれていなかった。
「スウォン空軍基地に着陸させましょう。あそこは3000m滑走路が2つあります。それに南東には同じく長い道路があり、地盤も十分です。そこなら着陸できます」
「分かりました、そちらは任せます。攻撃指揮のため、このトレーラーは移動します」
乃木がそう言い、移動の命令を出した。兵站課の参謀はトレーラーを降りて空軍基地へと向かう。
「敵部隊、目視で確認」
19式指揮通信車が到着し、カメラで目標を写した。それによって全ての部隊が敵の位置と展開状況が確認できる。そして、自走砲とFH70、マルスが一斉攻撃を開始する。
「おお、凄い凄い。敵は大混乱だな」
陣地を構築して敵接近に備えていた所を頭上からロケット弾と砲弾が無数に降り注いだのだ。混乱しないほうが無理な話である。
「おっと、近くに着弾したな。少し後退しろ」
近くに着弾した為、安全の為に少し後退した。
「おい、無線誘導の小型ラジコンヘリを飛ばせ」
「了解」
上部ハッチを開け、小型のラジコンヘリが飛び立った。カメラと映像の送信機を備えた個人用偵察ヘリである
「見た目は子供が遊ぶラジコンヘリだけどな」
「技術研究本部は何をしているんだか」
「役に立つなら、使うまでだ。実際、これのお陰で敵の発見は容易になったんだからな」
2000年代から偵察関係の装備を拡充して、それと情報リンクシステムを構築した事で敵の早期発見、警戒が可能となった
「まあ、元々は海外での平和維持活動で使う予定だったそうだけどな」
「敵は大混乱と、侵入した指揮通信車が連絡して来ました」
「まあ、そうだろうな。この映像を見る限りは」
メインディスプレイには攻撃を受けて右往左往する新羅軍が映し出されていた。そして、10式戦車と18式戦車。更には21式戦車が投入されてより一層混乱している
「落ち着け!!。対戦車砲と戦車は敵戦車を。装甲車と歩兵部隊は側面から援護」
隊長は指示を飛ばすが、それで応戦できる部隊は少なかった。しかも、その少ない部隊も直ぐに撃破された。そして、逃げていく部隊も側面から来た戦闘ヘリからの攻撃を受けて数を減らす。もはや、立て直すのは絶望的だった
「戦車に、白旗を、挙げろ」
隊長の乗るT14には、白旗が挙がった。それを見た陸軍は包囲して、隊長と他にも降伏した兵士を拘束した。
-首相官邸-
「どういう事ですか?突然の援助物資とは。こちらは何も聞いてませんよ」
西澤は空軍から連絡を受けるなり、直ぐに英首相スタックフォース首相に連絡を入れた。そして、電話交換台が首相のいるユストゥス・リプシウスに繋いでくれた。
『どうもこうも、貴国が早く戦争を終わらせてくれる事を願っているのだよ。これは平和を望む欧州の人たちの願い出もある』
「アメリカとの戦争を計画している貴方らしくない言葉ですね」
『それも、早めたいから戦争を早く終わらして欲しいのだよ。中国や北朝鮮相手に手間取っているようでは、超大国アメリカを相手に戦えないだろう』
西澤は唇を噛んだ。
(この戦争狂が。次から次へと、よくもまあ戦争を計画できるものだ)
「なら、そっちでも和平交渉をお願いできませんか?パキスタンは拒否しましたし、インドがパキスタンに侵攻しましたからね」
カシミール地方を巡っての対立で中国よりの発言したパキスタン大統領に対し、インド政府はパキスタンに宣戦布告。侵攻を開始したのだ。それによって、日本が和平交渉の場と考えていたパキスタンが使えなくなり、新たな交渉場所を考えていたのだ。
『オーケ、オーケ。考えておこう。それじゃあ、早くの終結を期待しているよ。それでは』
そう言って電話が切れた。
「あの、欧州の戦争狂が」
戦禍は拡大すると、西澤は思った。恐らくは、世界の予想に反した第三次世界大戦になるだろうと考えたのだ。