北の反撃 拮抗編
-スウォン市-
「市外では戦闘が生起しました。まだ斥候同士ですので大規模と言う訳ではありませんが、直に本隊が来るでしょう」
ディスプレイには、既に戦闘地域の状況が送信されている。司令部ではそれらの情報を処理し、効率的な反撃手段を模索する。
「10式戦車隊を出しましたので斥候同士の衝突は終結しますが、本隊の規模は不明です」
司令部では次の脅威を探す。当然、斥候の次に現れる脅威は新羅陸軍の主力部隊。即ち、戦車を伴う地上部隊である。
「先任参謀、この上に装備している無人偵察機を飛ばしなさい」
乃木が立ち上がって言う。
「了解しました」
急いで準備を進める。セミトレーラーの上にはレールが装備されており、そこに土台を装着して無人偵察機を固定する。無人偵察機のレシプロエンジンを始動して待機。
「準備完了しました」
「発射!!」
命令と同時に発射スイッチを押す。土台に装備されているロケットブースターが点火し、レールの上を一気に駆け抜けた。そして、空中で無人偵察機が分離して飛び立った。
-首相官邸-
「北の反撃を食い止められる見込みは?」
「10年前だと、『100%食い止められる。』と答えるでしょう。しかし、現在と10年前とでは訳が違います。東側の最新装備で武装した近代軍が相手ですので、五分五分かと」
首相官邸で話し合う西澤と北里。
「アメリカの支援を受けられぬ今、独力だけで北と戦わねばならない。中国の方は同盟軍と戦えるから良しとしても、10年前は相手にすらしていなかった軍が今ではアジア最強軍の一つだからな」
「あの国は10年前から改革を進めてきた。国内の情報を少しずつ公開し、他国から信頼を得るように努力して支援を受け、今ではあの状況。まさか、戦争の為にやっていたなんて、考えたくありませんでしたよ」
10年前に金正日は突然国内の改革を進め、軍事費の一部を国民生活向上に向けての資金に回して他国に独裁国家脱却をアピールした。しかし、それも戦争の為の布石であったのだ。
「反撃を止められなければ、属国になるでしょうね。望まない属国は、国民の不和になる。和の為にも食い止めるしかないでしょう」
「平和と言うものがこの世にあるのなら、どうして争うのだろうか」
「人が平和を勘違いしている限り、平和は来ないですよ。平和とは待っていて来るものではない。血を流して、勝ち取っていくのが、平和ですよ」
-スウォン市-
「これはまた、凄い兵力だな」
木をなぎ倒して進攻する戦車隊を無人偵察機が捉えた。高速道路の上も、戦車が埋め尽くしている。
「高速道路も良く持ちこたえているよ。さて、効くかな?」
撤退の最中に高速道路にばら撒いた対戦車地雷(時限装置付き)。
「そんな物を仕掛けていたのですか?それでは、引っ掛からなかった分は進撃時に処理する時間が必要です」
乃木が聞くが、対戦車地雷を仕掛けた参謀は
「大丈夫ですよ。一つでも作動したら、後は時間差で全部起爆しますから」
と答えた。そして、戦車隊は地雷を踏んだ。
「地雷だ!!」
先頭を走るT14は、地雷を踏んで転輪が幾つか吹き飛び、履帯も切ってしまう。後続車は急いで停止した。
「畜生、進撃が遅れて・・・」
その瞬間、仕掛けられていた対戦車地雷が時間差で爆発。周囲の戦車も爆発に巻き込まれた。そして、生き残った戦車も、高速道路の崩壊で崩れ落ちた。
「ぜ、全車に通告。進撃中止!!。進撃中止だ!!」
辛くも生き残った隊長は無線で進撃中の全部隊に停止を命令した。
「戦車を横隊に展開して待機。拮抗状態を作れ。そうすれば、簡単に向こうも動く事は出来ない」
無線を切った隊長は戦車から出る。
「やってくれたな。まさか、敵は見抜いているのか?。俺達の兵力が見掛け倒しだという事に」
隊長の後ろで炎上する戦車の半数は、何と大量に余っているBMPなどの履帯装備車両に精巧に作られた張りぼてをくっ付けているに過ぎなかった。
「不味いな。これでは、奇襲効果などそうそう狙えないか」
横隊に展開し始めた生き残りの後続部隊を見てながら言った。
-ユストゥス・リプシウス-
「日本は本気になってくれて私は嬉しい限りだよ」
「英国はずっと待っていたのだろう?、スタックフォース。あの神秘の国が本気になる事を」
ここには英首相のジェームズ・スタックフォース、仏首相のシャルル・リードバック、独首相のフリードリヒ・シュタイナーの三人が居た。
「武器弾薬、それに生活物資から何から何まで必要量の3倍の支援物資が既に日本へ向かって飛行している。これで、我がドイツの日本への友好は確固たるものになった」
「ここまで援助したんだ。対米戦にも乗るだろうし、それにあの国を援助したときの見返りは」
皆、日本が勝つ事を望んでいた。と言うのも、勝った時の援助の見返りとして神秘的とも言うべき兵器の情報が欲しかったのだ。
「ここに来る前に連絡員から情報を聞いたが、どうやら日本は北と、朝鮮半島で拮抗状態を作り上げたそうだ。早く終わらせるためにも、物資援助をどんどん送る。そうすれば、日本も反撃に出るだろうからな」
欧州にも、日本にとっては良い事だが、それでも少しずつ不穏な空気が漂い始めた。主要大国を巻き込んでいく、戦争と言う不穏な空気が、欧州に漂い始めていた。