北の反撃 初撃編
-ソウル-
占領した大統領官邸に乃木大将は入った。中は戦闘があったとは思えないほど損傷が少ない。
「国会議事堂と比べて、損傷は少ないですね。これなら総司令部として機能するでしょう」
反攻軍司令部として大統領官邸が選ばれた。第3軍司令官、乃木大将は大陸反攻軍司令長官を兼任する事となった。
-黄海-
「海はやはり、良いものだな」
赤城甲板上に立つ東郷は、そこから見える海を眺めている。黄海に派遣している空母は2隻。赤城と加賀である。
「東郷長官、インド陸軍から連絡です。山東省を占領したもようです。しかし、万里の長城に阻まれ、進撃不能だそうです」
「そうか。だが、良い状況だな。敵も停滞している今ならこちらも補給が出来る。好都合な事だ」
しかし、黄海には海の狼が潜んでいる。
「攻撃開始は3時間後」
通信アンテナのみ海面に出して連絡を取っていた巨大潜水艦。東京湾に浮上した赫居世居西干と同型艦。しかも3隻が待機していた。
そして、38度線にはこれもまた新羅陸軍の総力を集めた大部隊が集結している。春川市には第一軍集団第一、第二軍が集結している。そして、ソウルには第一軍集団第三軍、第四軍が集結している。全面衝突は避けられなかった。
-人民武力部-
金斗益は司令部に映っている朝鮮半島の地図を見ている。
「各軍、展開完了です」
連絡員が武力部長に伝える。
「了解だ。では、やろうか。一か八かの大博打だがな」
新羅陸軍は総力を持って反撃を行う。つまり、負ければ後が無いのだ。
「総員、怯まずに最後の一兵まで戦え」
-南解次次雄-
「浮上せよ」
海面に浮上した3隻の潜水艦。いや、潜水空母は浮上するなり葉巻型の船体の上甲板が水平に開き始める。そして、水平に開いた後に艦橋が右に移動した。
「やはり素晴らしい。これが、ロシアの技術」
艦橋に立っているのは淵蓋蘇文。中国空母艦隊司令だった楊海皇を助けた人物であった。
「反撃を開始する。目標、日本空母艦隊」
カタパルトから次々に攻撃隊が発艦していく。
「用済みの楊は粛清したし、これで我が国に勝る国家は居なくなった。それにしても、楊中将は本当に愚かだ。我々の役に立って命を繋ぐ?。少し長くなったに過ぎないのだよ。利用して殺す。それが、新羅のやり方だ」
楊は空母運用術を教えた後、武力部が粛清したのだ。情報漏えいを防ぐ為である。
-春川市-
「何の音だ?」
北の方を警備中の歩兵が、突然聞こえ出した爆音を耳にする。
「我々の持つジェットエンジンの音ではないな」
空を見上げ、唖然とする。赤星を付けた航空機が次々低空で市内に侵入していくのだ。
「た、大変だ!!連中、反撃してきたぞ!!」
急いで無線を掴むが、続いて地面が揺れだす。
「こ、今度は何だ!?」
揺れが激しくなったかと思うと、林の中から戦車が次々に出現した。出現した戦車は監視所を砲撃して中の兵諸共粉砕した。
「春川市まであと1kmだ。既に航空部隊が爆撃してくれた。突入するぞ」
後ろからも戦車が続いてくる。T72を主力とする戦車部隊。しかも、随伴部隊にはBMPまで居る。
「第一段階成功だ。これより、占領行動に移る」
-ソウル-
「市街に敵部隊が侵入した模様です。また、春川市も敵航空部隊並びに戦車部隊による攻撃を受けている模様」
大統領官邸に連絡が来る。乃木大将は直ぐに立ち上がった。
「詳しい状況を説明せよ」
「は。敵は主に2つに分かれて、我々の2つの集結地点に進攻してきました。ここソウルと春川市です。敵の規模から考え、全面攻勢と考えてもいいかもしれませんが」
地図に赤い線を引いていく。敵戦力の通過地点だ
「黄海の空母艦隊から応援を要請してください」
そう言った矢先だった。別の連絡員が慌てて部屋に入ってきた。
「し、失礼します!!。空母艦隊から連絡がありました。敵の奇襲を受け、空母2隻戦闘不能。航行に支障は無くも、艦載機多数破損。援護できず」
「やられましたね」
ディスプレイには、空母2隻戦闘不能と記されている。レーダーを低空で掻い潜った見事な作戦である。
「哨戒機に発見されずに空母まで接近するとは、敵ながら天晴れですね。では、司令部を移動車両に移す用意を。ソウルを脱出しましょう」
不利と見るや撤退。いたずらに兵を失わない為の最善策は、それしか思いつかなかった。
「各部隊に通達。防戦を展開しながら撤退。水原市までまずは撤退しましょう」
高速を走れば直ぐである。急いで撤退を始めた。乃木もセミトレーラー指揮通信車で移動を開始した。
前にも書いたとおり、実際の万里の長城は北京北側ですが、この話では南側にあります。